美代子阿佐ヶ谷気分(2009) @イメージフォーラム

美代子阿佐ヶ谷気分
 
70年代初頭。漫画家・安部愼一と恋人の美代子は東京・阿佐ヶ谷で同棲生活を送っていた。彼女をモデルとして月刊漫画ガロに発表した『美代子阿佐ヶ谷気分』は、彼らの一番美しい青春の季節を見事に切り取っただけでなく、当時の若者たちを取り巻く時代の空気感をも掬い取り、彼の代表作となる。しかし、自らの私生活の中に創作の糧を見つけようとする安部は次第に行き詰まり、焦りと絶望は次第に狂気をはらんでいく。その傍らで美代子は自らの性(さが)を意識し始める・・・「私たちだけ幸せだったら、それでいいじゃない」−− 運命の二人の愛の変遷。
2009年/日本/86分/カラー/監督:坪田義史/出演:水橋研二町田マリー本多章一・松浦祐也・あんじ・佐野史郎 (→HP

70年代の中央線沿いの恋人たち。しかも男はガロの漫画家。原作の漫画は未読ながらも、あまりに興味のツボど真ん中の設定のため、かえって見るのを躊躇していた「美代子阿佐ヶ谷気分」。なぜ今重い腰をあげたかというと、日曜日に阿佐ヶ谷に行ったときにあちこちでチラシやポスターを見たから。わたしの行動原理はどうぶつなみだ。
(阿佐ヶ谷で見かけたチラシやポスターのなかでもヴィオロンのお店の外に置いてあったチラシが、日が当たって日に焼けて、もう何年もそこに置きっぱなしにされたような無造作さで印象的だったのだけど。映画のなかにヴィロンがでてきたのでびっくり。内装とか、特に70年代仕様にしてない(今とおんなじ)ようすに二度びっくり。やっぱりヴィオロン異次元よいところだ‥)
(思いがけずあっちこっち、長文になるのでたたみます)
映画はなんだかずっしりよかった。あまりに正面的すぎる表現に照れる場面もあったけれど、愛なんだからどうしょうもないわねってうけとめられた。愛ってこわいな厄介だな。そしてやっぱりどうしょうもない。映画は30年の時を語る。舞台は阿佐ヶ谷・福岡・所沢・福岡(田川)へと変わり、恋人たちは夫婦になり、父と母になり。エンディング、画面が暗転して流れる歌は、現代調のロックンロール。一瞬そのみずみずしさに戸惑うのだけどなんだかとてもいい歌で、なんだかとても映画に合っていて。生命力とか肯定力を感じて思いがけず感動してしまった。映画が終わってパンフを見て、エンディングは映画中でも触れられていた実息のバンドの歌だと知りさらに感動。鳥肌たった。なんていうか生きつづけるってだいじだ。好きなことを好きだって言うことってだいじだ。

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映画館に貼ってあった雑誌の切り抜きがすごくおもしろかったので書き抜き。

─安部さんにとって、美代子夫人は“永遠のミューズ”なんですね。
「ミューズ? あぁ、ヴィーナスのことですか。いやぁ、ヴィーナスは誉めすぎですよ(笑)。でもね、美代子はボクの高校時代の後輩で、ボクの初恋の人。仏像でいえば、その頃の美代子はお釈迦さまのような魅力があった。それで上京してからはボクの保護者みたいな存在になり、そして今もそうだけど“アベシン”の最大の理解者なんです。でも今は美代子はすっかりたくましい女です。阿佐ヶ谷にいた頃は、ボクのいうことは何でも聞いていたのに(苦笑)。この間、美代子に『生まれ変わっても、もう一度キミに求婚するよ』 と話したら、『今世だけで、もう充分。こんなハードな人生は一度でいいわ。でも、アナタが死ぬまでは一緒にいます』 と言われてね。はは、今じゃボクはすっかり恐妻家です」  (→サイゾーHP

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上映前、予告編のかわりに短いトークショーがあった。坪田監督と、もとガロの編集者だった高野愼三氏(現北冬書房主宰。貸本マンガ史研究会会員)。お話も興味深かったけれど、坪田監督の無防備な様子にいっぱつでファンになってしまった。なんなの!安部慎一を語るときの表情は。なんなの!その得体の知れないTシャツの絵柄は。スポーツでもしてたのかしらんというがっしりした体格で叙情ガロ漫画への愛をまっすぐに語る姿はそうとうキュートでした。安部慎一氏の「車」という作品を、「今まで読んだ漫画のなかでいちばん好き」と言っていたのかな。こんど読んでみよう(はぁと)。高野氏は、坪田監督のアツい思いをかわしているのか・たきつけているのか、涼やかな顔で安部さんに愛あるダメだしを語るのがおかしかった。「絵が、下手でしょ」。「美代子を誉めたら、次もその次もおんなじようなの描いてきて‥。描き方ってあるでしょ。あんなものは誰も読みたくないですよ(「美代子阿佐ヶ谷気分」の次回作とその次の作品を続けてボツにしたことについて)」。←この感想聞いたらむしろ読みたい気がする。

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役者さんたちの様子、70年代の描写、風景、どれもすごく絵になっていてよかった。たぶん、夢の結晶化した、実際よりうんとキャッチーな1970年。でもすごくよかった。どうでもいいけど(よくないんだけど)あんじが。大昔モデルしてた頃(キューティとかで)の印象しかなかったのだけどなんか‥。美人になったような‥とんでもないしもぶくれになったというか‥(しもぶくれなのに美人って)‥角度によっては、ふぐ‥?(ゴニュゴニョ)(ある意味必見‥)