節季市(チンコロ市) @十日町市

ひとめ目にしたその日から、恋の花咲くこともある。あこがれの、チンコロ市に行きました。そうです、チンコロに逢いに行ったのです。チンコロ市とはなにかというと、

〜節季市(チンコロ市)〜
農家の人々が、主に冬期間の副業として竹やわら等で作った生活用品、民芸品を持ち寄り市を開きます。犬や十二支を型どった小さなしんこ細工の「チンコロ」が人気で、別名「チンコロ市」とも呼ばれています。
“チンコロ” とは?
しんこ(米の粉)を原料にして作った細工物。干支にちなんだものが多く作られてきました。大きさは3センチ位で、すべて手作りのため一つ一つの顔や表情が異なります。福を招く縁起物として飾られたり、囲炉裏で焼いて食べられていました。(現在は飾り物として作られています) / 十日町市観光協会のHP(→☆)より

この愛くるしさ。 無造作ななんでもなさ。ディスカバリーJAPANの目玉になりうるプリミティブなかわいさ。“チンコロ”っていう名前も、“ちんまい犬っこ”がちぢんだんだなって推測すると、もう、もう、もう。抱きしめたい‥。‥そんなわけで、チンコロを連呼しては、周囲の人に注意された一月のわたし。ひっそり始めたツイッター(むかしの名前ででています)でも、チンコロを連呼したおかげでエッチなつぶやき専門家からフォローされる始末。せっかくフォローしていただいたけど、わたしのつぶやきでチンコロ以上にセクシーな単語はでてこないと思われますよ‥。

それはともかく。行くといっても新潟十日市。日帰りは無理なので、一泊二日のチンコロ詣で。バスにゆられて十日町のリゾートホテルへ。バスの窓から見えるのは、笑っちゃうくらいの豪雪。遠くへ来たなと気分が高まり、愉快なきもちになるけれど、雪かきをする人を見て、大変だよなと笑いがひっこむ。だいたいわたしより年が上の−−、へたしたら、親の世代より上の方が屋根にのっかって雪おろし。遊び気分で来ちゃってすみません‥。(比べれば)若いわたしのほうが雪かきするべきですのに。

などと思いながらホテルに到着。温泉につかり、明日の闘志をたかめるのでした。
::::
あけてチンコロ市当日。十日町駅から歩くこと、約10分、チンコロ市の会場となっている道は、‥思ったよりこじんまり。車が一台通れるくらいの幅の両側に屋台が並び、‥並びっていっても、そんなに距離はない。わたあめの屋台、イカ焼きの屋台、わら細工のお店や長靴の屋台があるのが雪国らしいけれど、規模としては、近くの神社の夏祭り豪華版といったかんじ。
ていうかチンコロ屋台はどこに? そう、チンコロの屋台が見当たらない。屋台のなか、あちらこちらでチンコロってるのを想像してたのに。やっと見付けた、「昔ながらのチンコロ」の屋台は、「本日分は完売しました」。まだ、10時半にもなっていないのに!?

その後に見付けた、もうひとつのチンコロの屋台には、けっこうな行列(20〜30人)。しかも、「今から並ばれても完売して買えない可能性もありますので、ご了承のうえお並びください」。なんですと!?
とりあえずその列に並び、Kに、「ほかにもチンコロのお店がないか見てきて!あったら様子を教えて」。携帯電話って便利だなあ。しばらくして戻ってくるK。「ほかにはチンコロのお店なかった」。戻ってきたKが最後尾に並ぼうとすると、「今から並ばれても、おそらく品切れです‥」。ああもう神様。まったく気が気じゃないったら。もし、わたしの前で完売しちゃったら。わたしの新潟行きはなんだったんだろう。

今日が日曜日だから混んでるのかしら。ああ、でも、一月は平日会社を休めない。後ろに並んだ地元のかたが、「いつもはこんなじゃないのにね」。そうか、今日は特別なのか、しかしなんでまたよりによって。(あとから聞いた話では、ちょうど旧正月にあたるため、人々の正月気分が高まったのではないかということでした。ほんと?)
気が気じゃないまま並ぶこと、20分くらいでしょうか。ようやくわたしの番がまわってきました。きゃっほう。 「おひとりお求めになれるのは3個までです」の声に、悩んで悩んで3体選ぶ。ふふっ。かわいい‥。

お会計のときに思い切って、「チンコロを買うために東京から来ましたっ」と言うと(ほんとは埼玉からだけど)、「みんな!このひと、東京から来てくれたんだってよ!チンコロを買いに!」。わー。パチパチパチ。拍手でむかえられるわたし。
‥ン‥。そういうひとは、あんまり居ないのかな。
まあでもわたしも当初は、チンコロ買いまくっていっそ買い占めて。お世話になったあの人この人に配ろうと思っていたけれど。ひとり3個しか買えないんじゃ、遠くから買いにくる人少ないかもな。

それにしても、チンコロが午前中に売り切れてしまうのは。そもそも少ししか売ってないからなのね。需要と供給。ていうかこれは福祉作業所で作って・売っているものなので。農家はもう、チンコロ作らないの? (ちなみに「エンゼル妻有」と作業所が売っていたのですが。わたしは、「エンゼル妻」という種類のチンコロが「有」りますよ、ということかと思い、どれがエンゼル妻だろう。それらしいのが見当たらないけど。のぼりに明記するほどの売れ筋商品だから、もう売り切れてしまったのかしら」などと妄想たくましくなのでした。お気づきの方ばかりだと思いますが、「エンゼル・妻有。妻有という地名の作業所っていうことです)

ホテルへ戻る帰りのバスのなか。運転手さんのおはなしによると、チンコロ作りはかなり大変らしいです。「形を作ってから色をぬるんじゃなくて、色をつけたものをまぜこんで形にするんですよ。だからけっこう難しくてねえ。農家で作るひとはもういないんだよね。いや、作ったとしても、売るほど作るひとはいないね。手間だから」。たしかに、チンコロ、ひとつ、300円。10個作っても3千円(のぞく材料費)。労力に見合わないかあ。
ああでもチンコロというものが姿を消さなくてよかった。伝統行事の受け皿が、福祉作業所だったとは知らなんだ。

::::

後日談その1:チンコロに夢中なわたしは、会社でもチンコロ愛を語っていました。そしたら同僚のMちゃんが、「こんなのわたしにも作れそう。ふっ、新潟まで行かなくてもさ〜作ってあげるよ〜」。さいしょは鼻で笑っていたのですが、チンコロ市から帰り、「大人気だった‥。飛ぶように売れていった、3個しか買えなかった‥」わたしがうなだれてそう言うと、「わかった‥!わたし、今年は喪中でそういうのダメだけど、来年には作ってあげるから!待っててね。」。正直、Mちゃんは、特に器用ではないと思うのですが‥。でもそのきもちが嬉しいな。喪にふくす敬遠なところも立派さ。

後日談その2:みっつしか買えなかったチンコロは、うちの家・Kの両親の家・わたしの妹の家・それぞれ旅立って行きました。Kのお母さんは、わたしが行列に並んだ話を聞き、ひどく喜んでくれて、ケースに入れたまま、リビングの、暖房のあたるところにチンコロを飾り、‥1週間もしないうちに、白カビさんが、ふわふわと。リアルにどーぶつっぽくなったった。チンコロは、乾くとだんだんヒビが入ります。細かく小さなヒビが入るほど、その年にはよいことがあると言われているそうです。かびてしまうとは想定外。 お母さんは、「新潟と埼玉じゃ、やっぱり気候が違うのね」とうなだれていた。

後日談その3:古本屋さんで買った「カラーブックス84 日本の祭 芳賀日出男著」に興味深い記述が。

秋田県横手市 かまくら
〜略〜 かまくらの日の朝、横手の町には大市がたちます。つもる雪の道で小正月のご馳走のための野菜、ハタハタという白身の魚、その間にまじって田舎のお婆さんたちがしん粉細工の犬のおもちゃを売っています。「犬っこ」とよばれ、色染めの小犬を手のひらの上にならべたり小箱に入れて雪の上におき、子供たちを待っています。この「犬っこ」は小正月の夜、訪れてくる悪魔を防ぐ力があるのだそうです。「犬っこ」を買った子供はかまくらの祭壇にお供えしたり、夜は北側の窓の外において一夜をすごします。(P10)

小正月の夜に悪魔?‥悪魔?(そこじゃない) 秋田にもしんこ細工の犬っこが。しかも犬っこ、かなりの活躍をみこまれてるよ。

「お祭の見方」〜比較して見る〜
お祭は単独にたった一つぽつりとある場合は珍しく、村祭のようなものなら、その周辺に似たもの、同じ系統のものを発見できます。
秋田県横手市かまくらは近くの角館という町にも形の変わった行事があり、むしろこの方が古い形と思われます。(略)
同じ系統の祭を見ておりますと、前に見た祭でわからなかったり、欠けていた部分が次の祭で発見されることが多いのです。これは考古学の土器の発掘によく似ています。土器の完全なものはなかなか発掘できません。しかし、不完全な破片も幾つか集めますと、もとの完全な形を復元して考えることが出来ます。お祭の場合も脱落したり、別なものが加わったり、地方によってさまざまな変化をしております。それらを比較して見ることによって抽象的な元の形が頭に浮かびます。(略) (P124)

チンコロ市に似たものは、東北地方に分布しているもよう。奥深しチンコロ道。チンコロ博士になりたいぞ。