夢みるように眠りたい(1986)/二十世紀少年読本(1989) @新文芸坐 〜映画美の極み/木村威夫

この日は仕事がバタバタしていて、上映前のトークショーはあきらめようかと思ったのだけれど、ここでひるんでどうするよ。仕事なんか来週でいいんじゃい!奮起して新文芸坐にむかったら、トークショーにでる佐野史郎さんと同じエレベーターになった。ヤッター。仕事ぶん投げて来てよかった。トークショーもとってもおもしろくて、ー木村さんへの愛情に満ちていてー、しあわせに胸が熱くなりました。我が週末に悔いなし。

わたしってほんとうはこういうロマンチックな映画が好きな人間なんだってこと思い出しました。

夢みるように眠りたい(1986)

夢みるように眠りたい [DVD]

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監督・脚本:林海象/撮影:長田勇布/音楽:あがた森魚他/出演:佐野史郎・佳村萌・深水藤子・松田春翠吉田義夫/白黒/スタンダード/81分/
超低予算ながらシナリオを読んで、「若い人たちが集まって面白そうだから」と引き受けた木村はかつての表現主義を思わせる映像を創出。その衰えぬ想像力とエネルギーには驚かされる。

素敵だった‥!夢みたいな箱庭。しあわせな箱庭。昔映画館*1で観てるんだけど、こんなによかったとは思わなかった。うっとりきらきらしたものが体中に満ちて、とてもしあわせな気分。たかが映画を観ただけで、体中の血をいれかえたみたい。豪華にもフィルム上映でした。「フィルムがもうこれ一本(?)しか残っていないので、あまりフィルム上映はしたくないんだけど、文芸座には喜んで差し出しますよ(微笑)(林)」。「夢みる〜」のいちばんさいしょの試写会が行われたのは文芸座だったそうで‥。ここにもいろんな愛が。イイナアイイナア嬉しいなあ。

二十世紀少年読本(1989)

二十世紀少年読本 [DVD]

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監督・脚本:林海象/撮影:長田勇市/美術:山崎秀満/音楽:浦山秀彦・熊谷陽子/出演:三上博史・修健・原田芳雄・秋吉満ちる/白黒/ビスタ/106分
「三日月サーカス」に育った兄弟の数奇な運命の変転。モノクロ画像にノスタルジックで、どこか妖しい質感がたちこめる。ジンタやあがた森魚の音楽も懐かしい風景への郷愁を喚起する。

こちらもロードショー時に観ているのだけど、あれ?モノクロなんだ?すごくまばゆいシーンを見た憶えがあるんだけどなあ。久しぶりに再見して、モノクロのあでやかな色彩にびっくり。カラー映画以上にカラフルなんだもの、驚いてしまう。(そしてこの日記を書いている6月現在、またしてもカラー映画だった気がしてならない。だってほんとに色彩を見たんだもの)
昔この映画を観たときは、お伽世界にいながらハッピーエンドじゃないことがなんとも物足りなかったのですが、ふっ‥こどもだったんだなー。大人になった今観ると、これしかないじゃないというハッピーエンドです。

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以下トークショーの思い出。わたしはこの木村威夫さんのことを知らなかったんだけど、お話を聞くとどうしたって木村さんのこと好きになっちゃうし、木村さんが携わった映画を観たい観なくちゃという気持ちになるので、とてもよいトークショーだったと思います。
惜しむらくはこれは特集上映最終日のいちにちまえのことだったので(次の日は予定を返上して新文芸坐に行ったけど)、うわ・この特集上映通うべきだったー!て後悔百万年だったこと。三回忌の次って‥ 次の特集上映は何年後だろ、クスン。

トークショーは、林海象監督と佐野史郎さん。おふたりには旧友ムードがあふれていて、とても和やかな雰囲気でした。「今日はなにを話しましょうか(林)」「それは木村さんのことでしょう(佐野)」「そうですね、木村さんのことをー(林)」。
『夢みるように眠りたい』はご存知のように林監督のデビュー作で、デビュー作で木村威夫を美術に使うなんてそんな贅沢なことがどうしてして出来たのかというと。デビュー作の右も左もわからないのが功をなしたみたいです。
脚本を読んだプロデューサーさんが、この映画は時代物になるんだから美術さんをつけないと、なんて言うんだけど、映画における美術がなんだか、全然わからないの。そんな知識はまったくなくて、でも、木村さんの名前は知っていたのね、清順さんの映画で名前を憶えていたから。赤い!っていう。「赤い!青い!(笑) ‥でも、いきなり木村さんにお願いするなんて無謀じゃないですか?」と佐野さんが聞くと、いや、でも、はじめて映画が作れることになって、今後どうなるかはまったくわからなくて。人生でただ一本この映画が作れるだけかもしれないんだから、悔いのないようにしたかったし、監督の自分がまったくの素人だったぶん、周りの人にはプロでいてほしかったんだよね。「うーん、そうかー(佐野)」。そう、それで、まず台本を読んでもらったんだよね、そしたらおもしろいじゃないって言ってくれて、予算を聞かれたのね。どれくらいかって聞かれたから、正直に、五百万ですって答えたんだよね。そしたらびっくりして、そんな金額で映画を作ったことはないっていうの。超低予算だって。「そっか、五百万って木村さんのギャラより低かったのかもね(佐野)」。でも、木村さんは、それをおもしろがってくれて。で、現場に兎に角お金がなかったから、(映画の舞台となる)探偵事務所の備品(小道具)は、木村さんがカポネの現場から借りてきてくれたんだよね。ああ、そう!木村さん同時期に、『カポネ大いに泣く』の美術をやっていてー、使いまわさせてくれたんだよ。あれは助かったなぁ。紙吹雪まで貸してもらって。「え!?紙吹雪も借り物だったの?(佐野)」。そうだよ(笑)。 お弁当を買うお金もないから、カップラーメンをたくさん買って積んであって、それを食べてもらうんだけど、「俺こういうのはじめて食べたなー」なんておもしろがってくれました。
『夢みるように眠りたい』はひとつの部分も変更がきかない、ああでなければいけないという映画になりました。『二十世紀少年読本』は、まるまる美術の映画ですね、木村さんの映画です。
それで、一作目を木村さんにお願いしたのが縁になって、木村さんがお元気なうちは僕の映画の美術はぜんぶ木村さんにやっていただいたんです。たまに、木村さんにばかり頼っちゃいけない、ほかの人にお願いしてみよう、なんて思うんだけど、そういうとき絶妙なタイミングで木村さんから電話があるの。最近どうですかーなんて。あれはなんだったんだろう。でー、映画の撮影中ってスタッフは同じ宿に泊まるじゃない。夜中に木村さんが俺の部屋をノックするんだよね。木村ですー起きてらっしゃいます?なんて。あれっなんだろう、何事だって起きてドアをあけると、ちょっとお話したいんですーなんて言うじゃない、部屋にあげて飲むんだけど、木村さんの話っていうのが、自分がこのまま死なないで生き続けちゃったらどうしようって‥心配してるんだよね。真夜中に。考えてたらこわくなっちゃうんだって。「そ、それは本気なんですか?(佐野)」。本気。本気でこわがってるの。「そうか、じゃあ、きちんと逝けて、よかったんですねー(佐野)」。木村さんは食欲も旺盛だった!夜中にラーメンとか平気だったもんね。その後トークの内容は、木村さんの美術美について。
リアリズムだけをよしとはしない人だった。木村さんにとって、リアルに創るのは当たり前で、その上のものでなければ意味がなかった。でも、『帝都物語』の東京をまるまるカキワリでやりたいって言ったのには驚いたな〜。「エッそんなことを!?(佐野) 」。リアリズムだけを求めないのは監督をした『黄金花』に顕著にでてますよね‥。僕、脚本を読んでいたので、芳雄さんが主演を引き受けたのが不思議で不思議で。撮影前に芳雄さんにお会いしたときにそう言ったら、「ん?脚本はこれからだろ?」って‥決定稿だと思ってないの。いや、あれ決定稿ですよ、って‥。「言ったの?(佐野)」。言えない。「そうだよねえ‥(佐野)」。芳雄さんタイヘンだったろうな‥。木村さんにとって、役者さんは絵の具なんだよね。だから、そこに立って!みたいな演出になる。芳雄さんそういうの好きじゃなかったからなあ。「あ、でも黒木さんの映画のなかの芳雄さんはすごくいいじゃないですか。相性っていうのはそういうもんじゃないんですよ(佐野)」。
僕、木村さんを見ているうちに、美術をやりたくなっちゃって。弟子入りさせてもらえないか相談したことあるんだよ。「え‥そうなの?本気で?(佐野)」。うん、本気で。木村さんは、いま監督をやれているのに勿体無いって言って相手にしてくれなかったけど。
晩年の木村さんが水木しげるみたいだったというのも小さくおかしかったです。

*1:水道橋の映画館ってなんて名前だっけ。「ピクニック・アット・ハンギングロック(オリーブ世界)」とか「ヘザース(クリスチャン・スレーターが輝いてた頃。ウィノナも可愛かった〜)」など不思議かつうれしいラインナップで好きだった‥