ファッション・イラストレーター森本美由紀展/森本美由紀ナイト第一夜 @弥生美術館

【ファッション・イラストレーター 森本美由紀展】 @弥生美術館
 

ファッション・センスと高いデッサン力を備え、スタイリッシュなイラストレーションを描いた森本美由紀(1959-2013)。80年代から近年まで、雑誌『mc Sister』『Olive』『25ans』『VOGUE』等で活躍し、トップクラスの人気を誇りました。ピチカート・ファイヴとのコラボレーションでも知られ、90年代には“渋谷系”ブームのアイコンになりました。
森本は2013年に54歳の若さで急逝しましたが、筆と墨によるスタイル画を追求し続け、女の子の憧れのファッションを描きました。
本展覧会ではアトリエに残された作品を一挙公開。進化し続けた30年の軌跡をたどります。

8月29日土曜日、森本美由紀ナイト第一夜にあわせて弥生美術館。トークショーから逆算してともだちと待ち合わせしたんだけど展示観る時間がたりなくなってしまった(けどお茶は飲む。ここに時間を使いすぎって節も)(いや、ちゃんと一周観られたんだけど雑誌スクラップなどねちっこくもっと見たかった)ので一部展示替え後の九月にも行こうと思います。
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とても見ごたえがありました。少女雑誌イラストレーションの遍歴も見え、雑誌が時代をどう反映したかが興味深く追えます。

森本さんと云えば、のスタイル画、あれは筆で描かれていたのですね。言われてみればあの線は筆以外のなにものでもないのですが、でも誰が筆だって思う?いきなりショックでした。筆でスケッチって一期一会感がありすぎる。でもほんとまぎれもなく筆だぁ(原画は思った以上に筆感あるのです)。しかも墨汁で、ライトの当たり方によってはてらてらと光を反射したりして。むぅ。

長いこと雑誌の仕事を続けて、自分の引き出しの残りが少なくなったと感じた森本さんは、自分の原点をセツ・モードセミナーで習ったクロッキーにあると考え、時間の許す限りお気に入りのモデルさんのクロッキーをされたのだそう(その際に、膝の裏を描くのが好きだったという素人にはよくわからない素敵エピソードあり)。何枚もクロッキーをするうちに、そのモデルさんのなかに見た自分が描きたい線・省きたい線の見極めが出来るんだそう。エピソードとして淡々と紹介されているのですが、読んでいて非常にガツンときました。あの洒脱な線は、センスじゃなくて修行だったのか‥。

高校生のとき友人に書いた手紙!この先どうなるのかわからないけどイラストの道へすすみたい!という熱い思い、希望と不安。読ませてもらって胸がしめつけられました。不安をおしのけてその道へすすんでくれてよかった‥!手紙に添えられた?陸奥A子イラスト模写の完璧さ、次回展示への布石を見せる弥生美術館、ともにニクいぜ‥!と感心してみたり。 (後のトークイベントで話されていたのですが森本さんは原田治氏の事務所?オサムグッズ事務所?に就職したくて面接受けたりもしていたそうです。森本さんのスタイル画を見た原田さんは、「あなたは人の事務所でなにかやるより自分ではじめるべきだ」と就職を断ったとか。「英断ですねー」「さすがですね。雇っていたらこんな展示はなかったかもしれない」。)

展示物のなかに、2002年にてがけた松屋銀座のクリスマスディスプレイがあるのですが、森本さん本人もひどく満足されたそうなのですが、これがほんとにほんとに素敵で!ヒャー・大人っぽくエレガント!銀座クチュール!ああこの紙袋欲しい!でも、こんな素敵なことがあったなんて今まで全然知らなかった‥。不覚!わたしのバカ馬鹿!ってなって(友達も知らなかったとうなだれていたので特にわたしひとりの不覚ではないはず)考えてみたら、2002年て、まだインターネットとか全然普及してなくて。今だったら、誰か知り合いがインスタで「松屋のディスプレイが素敵!」って知らせてくれるし、ちょっと前ならブログで目にしただろうけど、その前なんだ、だから知らないのかと思い当たり、ううむ‥となりました。雑誌文化。上品な時代だったんだな‥。

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トークイベント森本美由紀ナイト 第一夜・サエキけんぞう(作詞家/アーティスト)×沼田元氣(写真家/詩人)】

ヌマ先生とサエキさんの組み合わせ。意外なようなそうでもないような? ヌマ先生と森本さんは同じ雑誌で働いてらしたからつながりがあるのはわかるとして、サエキさんはどうつながってくるのかしらん?ふにくりふにくら考えていが、答えはあっさり展示中解説されていた。森本さん・ヌマ先生・サエキさんは「鼻めがねの会」という会の俳句友達だったのだそう(ヌマ先生の俳号は「ポンチ」。)。俳友なんて言葉はあるのかしらん。鼻めがねの会、他にメンバーはピチカート小西さん(俳号アロハ)、岡崎京子さん、サリー久保田さん、AKI‥。そうそうたる面子だなあ。この会は岡崎さんが事故に遭われるまで続いたとか。これは旧友ってことなのかしら。トークめっぽうおもしろかったのでした。

トークは、先のおふたりに、森本さんの仕事仲間で友人で、かつ森本美由紀作品保存会の井出千昌さん(この方も鼻めがねのメンバー)を進行役に加えて。

まず、弥生美術館でこの展示を観て、通常は消費されて終わりの雑誌文化をこんなに掘り下げていることに感動したというヌマ先生。に、かぶせるように、それもそうだけど男性目線でしか語られなかった美術の世界に女性が昔から好きなもの・大切に愛でていたものにスポットをあてるというアプローチこそ素晴らしいことでは?と訴えるサエキさん。どちらも素晴らしい功績ってことでいいのでは?と思うイチ観客のわたし。仲がよいからこその心地よい緊張感が刺激的でした。

「僕は亡くなった方について話すのが苦手で。人って亡くなると急に知り合いが増えるでしょ。あれがイヤで逆に話したくなくなっちゃう(ヌ)」「それはわかるけど、亡くなってはじめて聞こえてくるありがたい話ってあるじゃない。僕、穂積先生のお話聞けてすごくよかったって思ったし*1。友達に仕事の話なんて普段しないじゃない(サ)」「ああ、わたし、サエキさんのお話に同感。長いこと仕事でつきあっていたけど、森本って本当に仕事が遅かったの。友達付き合いを続けるためにはわたしが仕事(担当?)をやめたほうがいいんじゃないか?って考えたりしたし。でも、亡くなって、遺稿を整理すると、ひとつの絵を、何枚も何枚も描いてるの。何枚も何枚も描いて、自分にとってのまぐれあたりが出るまで描いて。あれを見たら、そりゃあ締め切り遅れるよねってわかりました(井)」。ちなみにその「まぐれあたり」の一枚は、井出さんにも、「全部のクオリティが高いから、なんでこれがその1枚なのかわからない」のだそう。(あまりのエピソードに、森本さんは禅をやられていたのでは、という質問がでる始末。残念ながら禅などの東洋思想系の本は本棚になかったそうです。「でも竹の絵とか描いてました(井)」)

はじめてサエキさんのお話を聞かせていただいたのですが、理知的にものごとを時系列に整理したいんだなあ‥と感心しました(自分にはまったくない成分なので)。ヌマ先生のお話を、「あれ?今いきなり年代とびましたよね? (〜検証〜) ほら、7・8年ジャンプしてる」とか(小西さんmeetsヌマ先生のお話)、 「それにしても沼田さんとお会いするの久しぶりですね(サ)」「そうですね〜30年ぶりくらいじゃないですか?(ヌ)」(これは、聞いていたわたしも、岡崎さんが事故に遭われてまだ30年は経ってないはず‥!と心でイエローカードを出したのですが)、「ええ?〜ホニャララ〜のときにお会いしてるから、15年くらいですよ(サ)」。ああっサエキさんが理性的に時系列に整理したら30年が15年になった!50パーセントOFF!思わず苦笑いのふたりでした。

そしてサエキさんは博識ゆえか知らないことは素直に聞きたがり、自分の勘違いは素直に謝り訂正し、なんて素敵な方なんだ‥!って目がハートになりました。目がハートって古いけど。ヌマ先生・サエキさんともにこのトークショーのために素敵なおみやげを用意してくださっていたのですが、ヌマ先生の振舞ってくだすったコケーシカショップカード付きミニこけしに食いつくサエキさんがおもしろかったです。「こんな豪華なものを全員に!一体いくらかかるんですか?」けっこうねばって原価を聞き出していて笑った。原価を安くおさえるヌマ先生の裏技まで聞き出していた。いわく「さすが沼田さん。老人殺しですね‥」。

渋谷系のアイコンのようになった森本さん描くピチカートについて、「小西くんが十頭身だもの。スタイル画は羨ましい」「俺も描いてもらえばよかった(笑)」。

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森本さんのなかのタマちゃん最高!と思ったエピソード。 「お洒落なことばかりしてると疲れる」と言ってネオGSのライブ!*2)に行ったり女子プロ観戦したりしてたそう。ネオGSのライブにはネオGSの服装でけっこうお洒落してくりだしたはず‥!と思いつつ、「お洒落なことばかりしてると疲れる」っていいねえ。と目を細める男性陣。

男性へのダメだしはけっこう激しく、ある殿方とふたりにさせたら、非常に気まずい空気が漂っていて、後からなにがあったのか聞いたら。「アタシ、ポーチ持ってる男の人ってダメ‥」とうなだれたそう。「そんなことで!(サ)」「僕もポーチ持ってたらすごい指摘されたことある!(ヌ)」。ヌマ先生が持っていたポーチならダメポーチとは一味違うものでしたろうに‥。「男の人へのダメだしが厳しくて、いいことなんてないのにね(サ)」。

意外や仕事場のBGMは北島三郎だったりして。電話すると後ろですごく大きな音で北島三郎がかかってたりしたそう。「森本は、“とにかくひれ伏したくなるものが好きなの!”って言ってました(井)」。 「とにかくひれ伏したくなるものが好き」ってすごいタマちゃんぽい‥!
「ところで『与作』は泣けますよ。与作は木を切る‥。そうしてコケシが作られるかと思うと‥(ヌ)」。この日の裏テーマはヌマ先生のエキゾチシズムだったのですが、これ以上長文になると人としてまずいので割愛。

森本さんmeetsヌマ先生のお話、ヌマ先生の盆栽イベント?におでかけになった森本さんが、ヌマ先生の盆栽パンツを椅子だと思って腰掛けてしまい、ヌマ先生本人から「スミマセン、それ椅子じゃないんです‥」と言われ「どうしようすごく恥ずかしいことしちゃった!」と井出さんに電話をかけてきたそう。これもタマちゃん。

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わたしが森本さんといえばまずmcシスター!となるため(残念ながら「ギャルズライフ」はわからないのでした)華やかなりし頃の雑誌文化のお話が興味深かったです。
新人の森本さんがお友達のイラストレーターさんと連れ立って、マガジンハウスの全部の階に挨拶・持込めぐりをしただとか(今だったら考えられないね。ふつうにオートロックだもんね)、喫茶店で何時間も打合せとか(しかし基本2時間は遅刻する森本さん。ある時などは5時間遅れて到着し、「あれ、まだ居たんだ?」と言われたとか。井出さんはこの打合せ、1日がつぶれるので内心気が重かったそうです) 。
今みたく雑誌文化が下火になってしまうと、それにまつわるもろもろが消えてしまいもったいないねと嘆かれていました。たしかにそれはもったいないけど、それに代わるなにかも生まれてきているはず‥!って思うんだけど実際どうなんだろう。

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と・こ・ろ・で。
今回弥生美術館に一緒にいったともだちと港やでお茶とおしゃべりをしながら、なんとなく温度差を感じて聞いてみると、ともだちはmcシスターを読んでいなかったそうで、「タマちゃんもオリーブでしか知らない」「いきなりタマちゃんて言われても。かわいいけどさァって思いながらオリーブ見てた」。
ショックを受けながら、温度差についての疑問はとけた。雑誌、この儚い夢のような‥でもそこに居た者にとってはとんでもなく影響力のある者よ。

*1:素敵なお話なのでぜひ読んでみたらよいと思います→http://info-morimoto.seesaa.net/article/424306911.html

*2:たまたま展示中、パルコフリーペーパー連載コラムのなかで「今ファントムギフトに夢中!特にわたしはベースの人に夢中!」というのを読んだばかりだったので(文章が井出さんでイラストが森本さん)、井出さんこの後ファントム夫人になられるのねえ‥とタマちゃんなら「くふン」という気持ちになったばかりなのもあり