喫茶タンポポ

8月の終わりに手にした「純喫茶へ、1000軒」。

純喫茶へ、1000軒

純喫茶へ、1000軒

わくわくめくったページの冒頭に紹介されている喫茶店のたたずまいがあまりに好みすぎてびっくりして。ほんとに冒頭のページだもんで、用心もして。何度も冷静になれ‥と自分に言い聞かせてはそのページを開き、ダメだ、どう見てもずばぬけて、好みだ素敵だ行ってみたい。住所を見たら大阪で。
ああっ大阪、遠いなあ。うなだれた頭をぱっとあげたのは、そう、わたし、10月に大阪行くんでした。そんなわけで、10月当日。新幹線から降りてまず向かったのは天王寺。からの阪堺電車。「線路沿いにあり阪堺電車の車窓からお店のたたずまいが見える」らしいけど天王寺方面から乗ったときにそれは有効なのかしら?←有効でした。これは方向音痴にはありがたい‥。いそいそとお店に向かいドアを開けると、なんともいえない、穏やかで優しい空間が待っていてくれました。
 
素敵だ〜‥。本で見たとおりだ‥、本で見た以上だ。ひたすらうっとりと、外を走る電車の音に耳をすませてぼんやりしていたい。
おずおずとお店のマッチいただきたい旨を告げると、マスターは「もしかしてあの本を見て来てくれたの?」。わたしのようにあの本に魅了されてこのお店を訪ねるお客さんがかなり居るらしく、「あんなに高い本売れるのか心配してたけど売れているんだね?」「あの本に使ってもらった写真がすごく綺麗に写っているから実物を見てがっかりされないか心配で」お茶目に微笑まれました。たしかにあの本に使われた写真はすごく素敵だったけど、実物はもっと素敵です!それに実物は実物だもの。ここにこうして自分の身をおけるんだもの。いざこの空間に来てびっくりしたのは、お店の中のはしばしまで愛情深く目が行き届いていること。古いお店ながら清潔そのもので。特に、おしぼりが折り目正しくきちっと巻かれて提供されたこと感動しました。普段おしぼりなんてきちんとしなくても気にならないのですが、嫌味なく、でもほんとに心がすみずみまで行き届いているなあ、と。そう思ってお店の中を見ると、このこじんまりしたお店のサイズも、ほどほどの音量で流れるテレビの音声も、すべてがさりげなく好ましく、くつろげるように配慮された空間で。なんともじんわりあたたかいきもちになるのです。
  
「どこから来たの?別にこの喫茶店のために来たわけじゃないでしょ?」マスターのお友達らしき常連さんに聞かれ、「夕方から大阪に用があったので、そのついでと言ってはなんなのですが。足をのばしてここまで来ました。来てよかったです」。この日だけで関東からいらした客人が3組めだったとか。「今は東京じゃこういう喫茶店は珍しいんだってね?」そんなものなのかねえ、笑うおふたりのやりとりのなんともいえない穏やかさ。わたしより先にいらしていた常連さんは、このまま晴れるといいねえ、気をつけて帰るんだよ、と通りすがりのわたしに優しい言葉をくださいました。素敵なお店は素敵な常連さんで出来ている。
カルピス名作劇場に出てきそうなマスターは、住吉で歩いて観光するならやっぱり神社ですかあ、とねぼけたことをたずねるわたしに優しく道を教えてくださり、「また大阪へいらしたときにはぜひ寄ってくださいね」とびあがりたくなるくらいうれしい言葉をくださいました。その言葉すっかりお返しさせていただきます。また大阪に行く時にはぜひ寄らせてくださいね。マスターいつまでもお元気で。

追記1。マスターがしきりに「古くてがっかりされないか心配」とおっしゃられたとおり、外観は、けっこうきてます。自然体でセピア色。はじめて見るのに思い出の中みたい。昔の歌でそんな歌あったなあ。♪はじめて会うのに思い出のようなひと(原田知世『愛情物語』♪ 。遠出したときのテンションは不思議。普段忘れている記憶がふいに頭によぎるんだもの。
 
追記2。素敵なこのお店があまりにマスターそのままなので。胸がいっぱいになりながら、純喫茶のかかえる宿命、一代で終わるのはもったいない問題もやむなしって思えてしまいました。後継者がなく終わりを迎える純喫茶たち。あまりにそのお店がその人になってしまったら。代わりはいないことが多いのも仕方ないんだなって。誰もそんなこと言ってないのにすとんとふにおちてしまった。だからこそ、いまある素敵なところへ素敵な場所をつくる人のところにいま行きたいんだなってすとんと。
追記3。あの本を見て来た、と言ったら作者の灘波さんから「そういうお客さんのために」言付かったから、と「純喫茶へ、1000軒」マッチもくださいました。灘波さんのその心遣い‥。うれしすぎる*1。素敵なお店に魅了されてしまう人はやっぱり素敵なんだなあ。今日の日記素敵の連発ですみません。だってほんとに素敵だったんだもん。
 

*1:本を買ったときに本屋さんでもらったのだけど、たまたま「最後の1個なので展示していた現物なんだけどいいですか?」てセロテープの跡があるやつだったので。そのときは最後の1個。間に合ってよかったと思ったんだけどわりとすぐ第2弾が入荷されて、「え。」ってなったので。せこくてすみません。この間の悪さがわたしクオリティ‥