「A子タンを囲む会」(トークとサイン会)@北九州市漫画ミュージアム

 常設展で1月11日(土)から開催する
「収蔵原画名品展~陸奥A子~」を記念して、
陸奥先生の誕生日、2月15日(土)に、
記念イベント「A子タンを囲む会」(トークとサイン会)を
下記のとおり開催いたします。
一緒に陸奥先生の誕生日をお祝いしましょう♪

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このイベントの開催を知った当初は、去年の「祝う会」が素晴らしすぎたので、きっとあの感動は超えないだろうから今回は見送ろう、と思っていたんです。でも「祝う会」で知り合ったA友さんに明るく誘ってもらって、原画展(観たいに決まってる‥)に行くついでだと思えばいいかぁ、なんて。

(今回、この「誘ってくれたA友」がまさかの‥申し込み電話が繋がらなくて(繋がったときには定員になってしまっていたそうで)参加することが出来ず。留守番するしかなかったA友に報告の長い日記となりました。読んでくださる際にはお茶でも淹れて、ゆっくり読んでください。ほんとに長いので)

 

 
と・いうことで、まず原画展について。

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2020年1月11日〜3月26日
収蔵原画名品展~陸奥A子~

北九州ゆかりの少女漫画家で、1970~80年代の雑誌『りぼん』などで“おとめチック”ブームを巻き起こした陸奥A子。先ごろ、平成30年度(第51回)「北九州市民文化賞」の受賞などを機に、オリジナルデザインの「御朱印帳」を制作(「到津八幡神社」にて頒布中)するなど、地域に密着した活動を続けています。
このたび、「北九州市民文化賞」の受賞を記念した原画展と交流イベントを企画いたしました。当館にて収蔵しております約4千点の原画から、新春・冬の季節感あふれる作品を厳選して展示いたします。
まだまだ厳しい寒さが続きますが、陸奥A子が創り出す“おとめチック”ワールドで、ほっこりと心あたたかにお過ごしください!

 

カラー原画12点、白黒原画34点らしいのですが、小規模ゆえひとつずつずっと集中して観られるのはありがたかった。

太っ腹なことに撮影OKでした。雑誌りぼんの表紙に使われた、見覚えのあるあの絵。表紙になると、いろいろな文字に彩られ細部が見えなくなってしまうけど、こんなところまで描きこんでいたんだ‥!ここを描きこむんだ!驚くやら見惚れるやら。原画の描線はとにかく美しいのです。

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(写真小さくて見にくいですが、帯揚げの絞りの細かさ!)

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(板チョコ持ってる!「TO YOU」書いてある!2月号の表紙だもんバレンタインデーの絵だったのか‥)

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この日(前期。~2/21まで)展示されていたのは『雪雪物語(1975)』『ミルキー・セピア物語(1977)(カラー扉絵のみ)』『ソリの音さえ聞こえそう(1977)』『冬の夜空にガラスの円盤(1978)』『粉雪ポルカ(1981)』『人参夫人とパセリ氏(1984)(カラー扉絵のみ)』『黄咲町ラプソティ(1985)』『12月のloneliness(2006)』、予告カットは『ハクションガールズ』『オリオン座から流星にのって』『一月座ロマンチック・ツアー』『マジカルミステリー・インスタントコーヒー』『(残念ながらわからないのもありました)』など。

予告カットの丁寧さ、細やかさに大感動‥。いやむしろ‥予告カットにこんな手のかかりそうなチェック柄描くう?勝手な思い入れかもしれないけど、チェック柄、手がこんでいて大変だけど好きだから頑張っちゃったのでは‥。ありがとうA子タン‥。時空を超えて感謝したりして。

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(ニットの質感も芸が細かい‥)

時空といえば、『雪雪物語』の電車のシーンには「ねんねこ」を着た女性が描かれていて時代を感じました。

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かわいさが古びないからちょっと前のこと、みたいに思っちゃうけど1975年て45年も前のことなんです‥。オソロシイ。時代という視点から見てみると、『人参夫人とパセリ氏』*1の扉絵で人参夫人の口紅の色がボルドーだったり、おそらく90年代の予告カットの娘さんの眉が太めのアーチ眉だったり、時代を駆け抜けていることに目頭が熱くなります。

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しかしそんな感慨は、『粉雪ポルカ(1981)』で主人公の夕芽ちゃんが牛の顔のポシェットをしていた(ことに今まで気が付かなかった)衝撃の前にふっとんだ。

このポシェット!前髪部分が蓋?になっていたり裏地が♡でかわいかったり(裏地なので♡の天地が逆だったり)、きちんとスナップが描かれていたり、とにかく芸が細かいんです。なのに原画で見るまで気付けてなかった‥。人間は人生で何回一生の不覚だとうなだれるのか‥。まあいいややっぱり原画を見せてもらうのは至福。2/22からの後期の展示も観たい‥けどさすがに‥そう何度も小倉に行けない‥。ああ‥また大規模な陸奥A子展を開催してください‥。お願いします‥。

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(こたつ布団までかわいいのはなんなのか)

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では「囲む会」にうつります。漫画ミュージアムのスタッフのかたが終始きびきび仕切ってくださって明るくスムーズに進行したのは(帰りの飛行機の時間があるので)とてもありがたかったです。

まずはトークショー。漫画ミュージアムの田中館長(A子先生とはアズ友)が進行役でした。まずは漫画家になることを決意した幼少期から。漫画家になる、と決めたのは小学5年生の頃のことで。「なりたい、じゃなくて、なる、って決めました。友達が、(漫画家に)なれなかったらどうするの?なんて聞いてきても、へ?(漫画家に)なるもん、なんでそんなこと聞くの?って」。劇画調の漫画を読んでいたときはちばてつや調の絵を描いたりされたそう。「番長!」みたいな。(見たい)

 

りぼんでデビューしたのは、幼少期にりぼんを読んで育ったことと、その前に「マーガレット」に投稿した作品が落選だったので「今考えると下手だったから仕方ないのに、当時は「ここ(マーガレット)とは気が合わない」なんて思って。「りぼん」に投稿した次の作品は小さな賞をもらってペンネームが活字になったのですごくうれしくて。それでりぼんでデビューしたいって頑張りました」「わたしは担当さんにはすごく恵まれて。デビューしたときの担当さんは、わたしには何も言わずにとにかく好きに描かせてくれたんです」「担当さんの中には自分の言うとおりに描かせようとする人もいるのに、それはラッキーですね(田中館長)」「何も言ってくれないので逆に不安なくらいでした。うんと後に、当時なんで何も言ってくれなかったか聞いたんですけど、‥わたし読者アンケートでわりと好評だったみたいで、担当さんは「何を言っていいかわからないから好きに描いてもらった」って(笑)」。

「あ、でも、一度りぼんで描いているときに、締め切りに間に合わなくて、空港に白紙の原稿を持って行って、ボールペンで描いたことがあります。当時漫画家さんのインタビューで、その先生はボールペンで描いてるっていうのを読んだので。でもちょっとひどかったのでそのページは単行本になるときに描き直したんですけど。そのときは担当さんに、「あなたは細々としたところに良さあるのでボールペンで描いちゃいけません」って言われました。いつも何も言わない担当さんなんですけど、さすがに(笑)」。

ちなみに締め切りに間に合わない逸話として、飛行機の中で描いたこともあるそうです。そのときはスチュワーデスさんが「陸奥A子先生ですか!?」とサービスでワインを出してくれたそうですが「わたしお酒飲めないんですよ‥(照れ笑い)」。

 

「わたしの作品って全体的に白っぽいじゃないですか。「たそがれ時に見つけたの」とか、編集部のほうで白すぎを心配してスクリーントーンを貼ってくれたりしてたんですよね。(笑)」「え(絶句)。今だったら問題ですね‥(田中館長)」。

!! (+o+) !!

わたし初期の陸奥作品の白さ(笑)は読者に委ねられた空間だと解釈していて。足りない部分を読者の少女の脳内で補って完成する世界、だから一人ひとりの情景として作品が残り、スペシャルになったんじゃないかなあと(勝手に)推測しているのですが。(でもたしかに画面、白いですよね‥。編集部の葛藤、わからないではない) そして、初期の作品には基本スクリーントーンが登場しないのに、「たそがれ時‥」に少し出てくるのは何故?と気になっていたのでとりあえず謎が晴れました。

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陸奥さんの作品は、白っぽいからこそベタが際立ちますよね。陸奥さんの黒はすごく綺麗です。(田中館長)」。「(照れ笑い)‥。あ、でもカラーページの背景にはじめて黒を使ったのは、失敗してもう黒く塗るしかなかったからです‥。思わぬ効果が出てよかったからその後は好んで使ってゆくんですけど」。「(微笑)陸奥さんはカラーのスクリーントーン使いも綺麗ですよね(田中館長)」。

この後画材のお話をされたのですが、カラーインクなどの話を経て、田中館長が「好きな紙は…」とたずねたら、「好きな髪形はおかっぱ」と答えたA子先生。失礼ながら天然かも…とほっこりしました。

 

おふたりは九州の漫画同人誌「アズ」のメンバーだというつながりもあり、古いおつきあい。「何度か陸奥さんのお宅にお邪魔させていただいたことがあるんですけど、すごく可愛らしくいろんなものが飾ってあったんですよね。ああ、ここからあの作品が生まれるんだって感動したのを覚えてます。(田中館長)」「やだ、昔のごちゃごちゃしたあれですよね、恥ずかしい。あの頃はごちゃごちゃさせるのが好きだったんです‥(照れ笑い)」。

A子先生って、部屋のなかをかわいくかわいく(こまかくこまかく、とも言う)描かれることに定評があるのですが、きっとほんとに、そういうのがお好きだったから(愛ゆえに‥)楽しんで描かれたんだろうな‥と思って、ここ、すごい、尊みのある会話ポイントでした。

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(ポット‥魔法瓶の花柄さえかわいい‥。魔法‥!)

 

基本的に生まれ故郷の北九州市で暮らされているA子先生ですが、40歳くらいのときに東京で一人暮らしを経験されたそう。「親の歳を考えたら、一人暮らしをするなら今だなって考えて」。「陸奥先生は東京で車を運転してたんですよね、それはすごいと思ってます(笑)(田中館長)」「東京に行ってわりとすぐに‥デパート(電機屋さんだったかも)に大きな物を買いに車で出掛けたんですけど、道が狭かったり一方通行ばかりだったり、怖いだけで全然辿りつけなくて。東京は電車のほうが便利だって知らなかったんですね‥。笑」。「もう運転はされないんですか?(田中館長)」「今年は運転しようと思ってます!」。

アクティブ!でもお気をつけくださいね!

 

思い出深い陸奥作品について。田中館長は『ホタルの星座(1998)』(ヤングユーコミックス『シャーベットはあげない』収録)を挙げられ(おふたりで雨上がりのホタル狩りに出かけたことがあるそうです)、A子先生は『滝沢家の怪電話(1997)』(ヤングユーコミックス『空の国のあなたへ』収録)を挙げられました。

A子先生は「わたしは絵より言葉‥セリフにこだわりたいほうなんですけど。『滝沢家の怪電話』は、このセリフのためにこの作品を描いたというシーンが、わりとうまく描けたかな‥と思って気に入っています」とのことでした。どの台詞かな、モノローグかな‥(2、3個あって決めきれない)*2。ぜひ読み返してみてください。

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ちなみにトークショーの会場には、この日初お披露目された書下ろし原画(と複製画)が飾られていたのですが。A子先生は「絵が下手なので恥ずかしいです‥。でも光栄なことだと思ってます」とのことでした。いやこの原画、すごく可愛いんですよー。華やかで爽やかな色使い、涼やかな描線。いいものを拝ませていただきました‥。詳しくは以下ご覧ください。

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サイン会は、待合い場所があって、奥の部屋にA子先生とスタッフさん、サインしていただくかた、順番を待つかた2名‥ 計6名が入る少数精鋭制?でした。時節柄、サイン会はマスク着用、奥の部屋に入る少し前に両手をアルコール消毒。

「囲む会」の前にA子先生がツイッターで、「サイン会に来てくださるかた、いっぱいおしゃべりしてくださいね」とつぶやいてらしたので「ナンノコトダロ?」と思ったのですが、ほんとにひとりひとりとじっくり長くお話ししてくださってる‥!奥の部屋からたのしそうな笑い声、歓声が聞こえてきたり、部屋から出てきたたいていのかたが目をうるませて部屋の外のスタッフさんにお礼を言って帰る姿を見ると、待ってる時間もなんのその、むしろこんなに時間をとってくださるんだ!夢のような展開にくらくらしてくるのでした。

部屋のなかに入った自分がどう振舞ったのか‥正直思い返すのもオソロシイ‥。今回来ることが出来なかったA友の無念を伝え、ぜひまたこのような会をお願いしますと伝えたりしたのかな、自分‥(途中動揺することがありめっちゃあたふたしてしまい前後不覚に)。A子先生はずっと微笑んでくださって優しく「またいらしてくださったんですね」と言ってさって、神‥。ちょいちょいお茶目に笑いかけてくださりありがたかったです。お話ししてくださるときの仕草がまた可愛らしいのですよ‥。サインの後、ちいさくやわらかい手でぎゅっと握手してくださってまた感激‥。

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(宝物が増えました)

この後、夜の飛行機で帰るため、A子ファンのお茶会に少しだけお邪魔させていただきました。初めてお会いするかたばかりなのに、サイン会の多幸感が強かったため人見知りを発動させるひまもなく、ふわふわ夢心地で感想を語り合い‥。いい時間というのはいい人がつくり、いい人をつくるのね。素晴らしい循環。

 

ふと思ったのですが、こういう会が東京で開催されたら、たぶん応募は殺到して、わたしの運ふぜいでは太刀打ち出来ず、毎回がっくりうなだれるのでしょうね。小倉開催だから、ガッツとやけくそでなんとかなるけれど。そう思うとこれからも北九州市漫画ミュージアムには頑張っていただくしか‥(なにとぞなにとぞ)。

*1:どうでもいいですがこのタイトル、『パセリ氏と人参夫人』じゃなくて、『人参夫人とパセリ氏』で、奥さんのほうが先なんですよ。さりげなく、少女至上主義なことに気付いているかしら

*2:A子先生にツイッターで質問してくださったかたがいたので判明しました。いちおうメモ。自分で探すからいいもん、というかたは以下読まないでください。→「パパを疑う資格があるのはこのママだけよ」だそうです