田渕由美子展 ~1970’s『りぼん』おとめちっく♡メモリー~

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人気少女マンガ雑誌『りぼん』(集英社)で、1970年代後半の“おとめちっく”作品ブームの中心的存在として活躍したマンガ家・田渕由美子(たぶち・ゆみこ)。白い出窓のあるおしゃれな洋室にアーリーアメリカン調のインテリア、小花模様のワンピースに白いエプロン・・・田渕の描くロマンチックな世界には少女たちの憧れがぎゅっと詰まっています。

本展は2020年にデビュー50周年を迎えた田渕の初めての展覧会です。「クロッカス咲いたら」「フランス窓便り」「あのころの風景」など『りぼん』時代の作品を中心に、初期作品から『コバルト』『YOU』他、エッセイマンガ等の近年の作品まで展示。原画・雑誌・ふろくから田渕の画業をご紹介いたします。(弥生美術館HPより)

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Ⅰ期。くらもち姉妹から届いたお花を見てテンションが上がりました。単純。

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Ⅳ期。田渕先生のサインにテンション上がりました。会期中二回行ったのだけど、どちらも平日だった(かつ事前予約制)のでゆったり観られてありがたかった。しかしこんなときじゃなかったら全国から観に来たいお客さん大勢いただろうに美術館たいへんだな…。

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ごめんなさい‥。りぼんのおとめちっく文化を愛する者としてうかがいましたが自分はそんなに熱心な田渕由美子ファンではないです。おとめちっくオタクなのでいつのまにかりぼんに発表された田渕作品の半分以上は読んでいるのですが持ってる単行本は「夏からの手紙」1冊だけです(マイフェイバリット田渕作品の「あなたへ…」が収録されているので)。

原画はもちろん麗しくて感激したのですがリアル世代読者の感激には遠く及びません。いちばん感動したのは、「フランス窓便り」の、陸奥A子先生が手伝った原稿だし‥。伝説が今ここに!みたいな。

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 (ともに「フランス窓便り」第一話から)

 

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(ともにりぼんデラックスから)

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実は(小声で)わりと最近まで田渕作品の魅力があまりよくわからなくて。描線が綺麗でかわいくて洒落ているけど、ストーリーにあまりピンときていなかったのです。「フィーリングまんがか~」みたいな距離。好きな作品もあるけれど、正直そこまでかなあ‥みたいな。リアルタイムで読んだ最初の作品が「あのころの風景」だったこともあるのか、ドラマチックすぎる設定に疎外感を持っていたのかも。

そんなときに、再読した「『りぼん』のふろくと乙女ちっくの時代 大塚英志」。この本自体、はじめて読んだときは知識として読んで「ふーん、そうなのか」という感触だったのですが、その後、当時のりぼんを読むようになりその頃のファンシー文化に触れるようになり、さらに少女期を冷静に振り返られるようになってから読むとー、書いてあることが“体感”として入ってくるというか、解像度が全然違うので驚きました‥。昭和に少女期を過ごした者皆号泣じゃない?くらいの。それはさておき作者の大塚さんは田渕由美子先生のファンらしく、途中熱い田渕漫画評が入ります。曰くー

 

・・・恋愛の成就が単に「好き」という告白に対しイエスと答えることではなく、誰にも理解されない私の内側を理解してくれることである・・・

(略)

・・・〈本当の私〉の理解者探しが主題である。(略)田渕由美子にとって恋とは<わたし>というようやく芽ばえたばかりのひ弱な自我を確立する、自分探しの手続きである。学園ラブコメディという流行を踏襲しつつも語られているのは恋愛そのものではなく、<わたし>について、なのだ。・・・

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『りぼん』のふろくと乙女ちっくの時代 たそがれ時にみつけたもの / 大塚英志

第3章 おしゃべりな瞳に目を伏せて・学園まんがの系譜

なんとおそろしいことに、この視点を手に入れて田渕漫画を読むと、ひとつひとつの物語にものすごく心を揺すぶられるんです‥!わたしは!田渕漫画の読み解き方を手に入れた!理解している人に教えを乞うのはだいじ‥!

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弥生美術館に話を戻して。

 

地味に感動したのがふろくの原画たち。これは自分が買っていた頃の「りぼん」にはあまり田渕漫画は載っていなかったけれどふろくではちょくちょく目にしていたからでしょうか。陸奥A子先生のふろく原画を見たときにも感じたのですが、原画はとても線が細く色合いも淡くーふろくというグッズになるためにパンチを効かせた印刷にするのか、見なれているのに印象が違って不思議なかんじなんです。ふろく愛と、ひたすらな絵の可愛さに惚けてしまいました。そしてそこに解説文として、「当時のりぼん編集部・ふろくスタッフは男性ばかりで、既存の感覚で「少女は赤い色が好き」という雰囲気だったのだけど初の女性スタッフだったリョーコ記者が、銀座の文房具屋(伊東屋かな‥?)に通って文房具の流行を学んだり、会議で「赤い色を好む少女もいれば、くすんだ色を好む少女もいる!」とかけあってさらなる魅力のあるふろく作りにおおいに健闘した」というようなことが書かれていてムネアツでした。ありがとう‥。ありがとうリョーコ記者!*1

*1:ちょっと前にも昭和の少女漫画編集部の男性の閉鎖的な記述を目にして「少女のことをおじさんが決めないでくれー」という気持ちになったもので。そういう時代だったとはいえ