世界屠畜気行

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

読みたい・読まなきゃと思いつつタイミングをのがしていたのだけど。いざ手にしたら、おもしろくって一気に読んだ。ウチザワさんが純粋に好奇心からルポしているのが素晴らしい。立ち位置がしっかりしているので安心して読んでいられる。屠畜現場がおもしろいわけではなく、食文化というか、「お肉・ごちそう」とのつきあいかたが、実に興味深くおもしろい。「お肉」がごちそうだった頃は、生活圏で屠畜されていたので、鶏なり豚なり、今生きているものの命をいただくという実感があったけれど。「お肉」が日常のものとなり、屠畜が遠くのプロの手にゆだねられることで結果命をいただく実感がうすくなったというアンバランス。「正月とはまさに『豚肉を食べる』ことに尽きるのであり、血をとるときのガウエー、ガウエーと泣き叫ぶその声は食欲をそそり(P207-208)」という健全な食文化・健全な食文化に宿る健全な精神をうらやましく思いながら。わたしは、そこにたどりつけないだろうなあ、あきらめまじりの羨望。
以前ワールドカップが韓国で開かれた頃、雑誌で、韓国の食犬の屠畜方法を、「なるべく痛めつけ、恐怖を与えてから殺す→恐怖を感じる物質がでると肉がやわらかくなる」と紹介しているのを読み、「なんて食に貪欲なんだろう」と非常に感じ入った(おそれと尊敬)*1のだけど、これはデマかもしれないということがわかりそれもよかった(犬の現場にも行ってお話を聞いているので。でも場所によるのかもしれないし、よくはわからない)。続編でないかな。いろいろな国のごちそう文化をもっと知りたい。

*1:ヒドイ!という思いと、いや食べる以上いちばん美味しい状態でというのは誠意なのではないか?という思い。どちらの思いもきれいごとっぽいなあという混乱