再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅 @ ユーロスペース

すごうく久しぶりに『少年、機関車に乗る』、人生4回目の鑑賞。『少年、機関車に乗る』は大昔にビデオ化されたのみなのでこの作品を観るには劇場に行くしかない、配給がユーロスペースなので忘れた頃にユーロスペースで上映してくれる。プラスマイナスは幸福ってことで。

 

実は先月、「この映画が上映されたら観に行くことにしている」『冬の旅』『動くな、死ね、甦れ!』をそれぞれ何度目かの鑑賞して。ふと。どちらもとてもいい映画だけれど、わたしがこの映画を大切に思うのはわかるけど、たまにしか観に行かない映画がこの2本って人生どうなのと思い(5月に見たのはこの2本きり。というか、この2本を見て、『ハロルドとモード』←この映画も映画館で上映されたらなるべく観に行きたいんだけど‥ を見送った)。こういう映画は、いろんな映画を見たときの座標にする映画で、こういうのしか見ないのは我ながら心配だわ‥。少し落ち込んだりもしたけれどわたしは元気です‥。

そんなわけで落ち込み気味だったけどこの映画観たら元気になった。ほんとにどこまでも奇跡のようなヒリヒリしたまばゆさ。初めてこの映画を観たときは「ヤングケアラー」なんて言葉(概念)を知らなかったけれど、弟の世話のために自分の人生設計をいったん白紙に戻すお兄ちゃんってヤングケアラー映画ともいえるのかしら。切なさ優しさよるべなさふてぶてしさ、すべてがいいさじ加減。見るたびに感銘をうけるデブちん(弟役のこども)の愛らしさも、毎回ガーンとやられてしまって、まばたきするまが惜しいほど。世の中の、なんと愛しい切り取りかた。こういう映画が世の中にあると、自分の胸にあると。世の中を愛すべき存在に思えてよい。少し強くいられる気がしてよい。やっぱり座標は大切‥!ユーロスペースさん、ぜひまたいつか上映してください。この映画を必要とする人は世の中にいっぱいいるはずなので。

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今回ユーロスペースのフドイザナーロフ監督特集は、すでに日本で上映された『少年、機関車に乗る』『コシュバ・コ・シュ 恋はロープウェイに乗って』『ルナ・パパ』の他に、日本初公開かつ遺作になってしまった『海を待ちながら』の4作品上映でした。『少年、機関車に乗る』はマストとして、次は未見の『海を待ちながら』。この機会を逃したらいつ観られるかわからないもん。‥『ルナ・パパ』は観ていてつらかった記憶があるからとばして‥この時間は休憩にあてよう。おっ『コシュ・バ・コシュ』のトークゲストはヌー先生だ。観なくては。というわけでこの日は3作品鑑賞。ひさしぶりのヌー先生のお話がやっぱり面白かったのでメモ。

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しかしフドイザナーロフ監督作品のトークゲストにヌー先生って、わかるようなわからないような(ヌー先生のくちからフドイザナーロフ監督の名前を聞いたことがなかったので)。あっマトリョーシカ繋がりかしら?と思ったら、ユーロスペース配給?のかたが、フドイザナーロフ監督の世界観と沼田元気の世界観は通じるものがある!と思い企画したそうで。「観たら大好きになりました!」。(なんかこの流れ、えらくなると映画のほうが会いに来てくれるんだなあと目からウロコ的な発見‥羨ましさがありました。まあえらくならなくても友達が「こういうの好きそう!」とすすめてくれたりするけどさ)

 

実際ヌー先生はマトリョーシカを通してロシア語がわかるので、

「デブちん」って、映画のなかでは「ポンチ」って呼ばれてるんだけど、これを「デブちん」って訳した人はすごくいいねえ。「ポンチ」というのはドーナツのことで、穴のあいてない、丸いふわふわふくらんだドーナツなんだけど、ほんとあのドーナツみたいでしたねえ。このデブちんのステッカーもいいねえ!みなさんこれもらいましたか?

と、ユーロスペースの企業努力を絶賛するとともに、「しかし日本の映画料金は物価のなかでも高いよねえ」と攻撃の手をゆるめないあたり。さすがでした。

ヌー先生は写真家詩人として、「自分だったらこの映画の放題をなんてつけるか」を発表してくれたのだけど、昭和レトロというか昭和30年代ぽさが過ぎたので割愛。

しかしこの監督は機関車にロープウェイに船‥乗物が好きですねえ。「コシュ・バ・コシュ」にユーロスペースが支援金を出しているということは、タジキスタンと日本の合作映画ってことになるの?‥それは良いお金の使い方をしましたね‥。この監督の映画って、父親の描かれ方が独特ですよね。どの映画も父親が大きく描かれているんだけど母親の影は薄い‥はじめから居なかったりもするし。母親映画って甘い、スイートなものになりがちなんだけど(そう?ある種の母親像が甘いものを求められがちなだけでは。←生徒心の中の反抗)父親映画‥独特ですね(たしかにこの監督の父親像は独特。家族観なのか世界観なのか政治観なのかはわからない‥。←生徒心の中の同意)。

そして「つまらない映画はあるけれど(フドイザナーロフ監督作品の事じゃないです念のため)退屈な映画はない」という名言が飛び出たことは日記に残さなければ。

 

ヌー先生は兎に角『ルナ・パパ』が特にお気に召したようで、「今まで観たなかのベスト5に入れたいくらいよかった。どうしてあんな映画が作れるんだろう?」と大絶賛でした。「すごくスピーディーになんかよくわからないドラマが立て続けに起こって‥画面の中、何が起こっているんだ?ってほんとに不思議な映画です」「この後『ルナ・パパ』ですよね?よかったら皆さんに観て欲しいです。でも、『ルナ・パパ』が凄すぎて、今まで観た作品のこと忘れちゃうかも。それはもったいないねえ。でも見ないのはもっともったいない」みたいにほんとに大絶賛。実はわたしはヌー先生の感想には時々性差のようなものを感じてしまって(個人差というより男性性みたいなもの)、この『ルナ・パパ』絶賛も、ちょっと、のれないものがあって*1。でもまあ、あそこまですすめるなら‥、と他の日に観に行ったのですが、やっぱり素敵要素より絶望要素が勝ってしまって、プラスマイナスつらい映画体験でした。つらいからこそ残るものというのもあるのだけれど。

でも、全作品鑑賞したのでデブちんキラキラステッカーをもらえ大満足。

ほんとにね。こういう映画があるということがお守りになるひとたちがいるんです。

*1:「ルナ・パパ」はつらかったという人と語り合いたいいいい