百年「と」女たち :曽我部恵一×桜井鈴茂

かつて愛した女たち、いま愛している女たち、これから愛する女たちへ。
曽我部恵一ランデヴーバンド『おはよう』は「女たち」というタイトルではじまる。すべての「女たち」の歌だ。
桜井鈴茂はFOILのWEBで『女たち』という短編を連載している。全部で12人の「女たち」の物語だ。
二人は『女たち』を同時期に作った。それは偶然なのだろうか?そこにどんな「気分」があったのだろうか?そして、「女たち」を通して何を語ろうとしているのだろうか?
それぞれの「女たち」。

吉祥寺の百年という素敵古本屋さんでトークイベント。ここの古本屋さんが好きで、ここでのイベントに興味があったのでほくほく参加。予想外に長くて聴き応えがあったし(休憩10分いれておよそ2時間半)、なにより和やかでたのしかった。愛と笑いの夜をありがとう。
司会にお店の女性スタッフをまじえ、友人同士だという二人は和やかな雰囲気。なれそめの話*1インパクトがあった。青春ってかんじだ(とおい目)。「女たち」と言うことで好みのタイプを発表したり、男女の恋愛観のちがいを話したり(男はフォルダを増やすけど、オンナは上書き保存だよね!と憤るお二人。ふふーん?)(女たち、はすべてだよね。なんでもいいんだよ。ちなみに男について語ることは、べつになにもないそうです)、あとは芸術論(?)。曽我部さんが音楽業界のことや市場のことを見ている視点がクールでなんだか感心した(感心っていうのはちょっと違うんだけど←わたしの立場がえらそうで。でもやはり現場にいる人はすごいシビアに見据えているんだなーって思ったの。あと、今はただ(よい)CDを作ってればよいという時代じゃなくて、もっとまんべんなく、とかブログ文化、と言ったのは、正直自分の音楽に対する姿勢がオールドスタイルすぎて「そ、そうなのか!(ブログ文化ってなに!?)」と衝撃すら)。そのことだけで食べていける芸術家なんてほんの一握りで、それはとても幸運なひと。曽我部さんはパン工場でのバイトがすごくつらかった(人と接せず黙々10時間?とか言っていた。つらかったけれど日払いで一日一万円もらえたのでけっこう長いことやっていたそう)のですごくそう思うのだけど、同時に、ベルアンドセバスチャンみたいに、「好きだからやっていくために」ほかに仕事をもつことはとても重要なことではないかとも。桜井さんも、納得できる作品だけを描いていたいのでへんに量産するくらいならバイトを続けていたいそう。作品制作に対する姿勢が、桜井さんが「けっこう没頭する」(でも一晩おいて冷静に推古するのは必要とも)のに対し、最大限に伝わるように、いろいろな角度から考えて、「けっこう冷静に」作り上げる曽我部さん。この違いが、性格なのか、小説と音楽の違いなのか、表現者としての時間の長さのちがいなのか。たぶん時間の問題*2だと思うのだけどまだよくわからないので、5年後にまたトークショーやりましょう!なんて桜井さんが和やかに言って、いったんむすび。
質問コーナーがあって、表現者として、「自分の納得のゆく作品」「他人から好評価をうける作品」どちらがうれしいか?の質問に、「もちろんどちらにも違った感覚で喜びがあるのだけれど」と前置きしてから、「他人からすごく好きだと言われるほうが、自分の作品とみず知らずの人がそんなに深いところで結びついたのかという感動のほうがうれしい」と曽我部さん。自分のなかでいちばん大きな存在を占める「女」は誰ですか?という質問には、ふたりそろって、女の原体験といえばそれはもう、「母親だよね」。曽我部さんは、「次は、娘‥」。ほう‥、奥さんは、また、ちがう存在なのか。奥さんについて、「うちの奥さんはおれのやってることとかあんまり興味ないかんじで。CDも聴かないし‥。芸術家の家庭はしあわせにおちついたらダメなんじゃないかな。おもしろいものが生み出せなくなる気がする。今の自分を肯定したいだけかもしれないけど」「でも前に付き合ってた彼女は‥。けっこう長く付き合ってて、おれの作るものに理解のある子だったんだけど。“あの歌のこのフレーズがいい”とか、ライブ見にきて“あの歌のとき声がかすれたからもっとおなかから声だして”とか“髪の毛の後ろがハネてる!とかアドヴァイスくれたんだけど”(でもとくにそれがどうとかはなかったなあ)」。←髪の毛の後ろがハネてるってアドヴァイスにウケた。どこからがハネにカウントされるのかわかりにくい髪形だよね‥。
奥さんというか理想の恋人について求めること(?)は「人生に混乱を(もたらしてくれること)」。名言‥。がでたところでトークはおしまい。表題である「女たち」を歌ってくれて、会場がじつにいい雰囲気になって、「もっと聴きたい‥!」てなったところで「もう一曲歌おうか?」と自ら言ってくれて(きゃー!うれし死に‥)、桜井さんからリクエストがでた、「24時のブルース」(!)。なんて贅沢な夜だろう。歌声で頭の芯がぼうっとなりながら外にでると、冬の夜風が心地よかった。不勉強なわたしは桜井さんの小説(曽我部さんいわく「とくに文学好きじゃないふつうの若者の書いた青春小説」)を読んだことないので、これを機に読もうと思った(誓った)。桜井さんのたたずまいはかなりいいかんじ(わたしたち夫婦にとってすごく身近に思える同年代の風貌)だったので、あまり本を読まないKも、「俺も読む!」と燃えていた。年内に買ってお正月に読もう。おお、早くも来年の目標が。*3

*1:出会いは9年前、偶然京都のちっちゃいバーで隣の席になり意気投合、翌日のサニーディの神戸ライブを観にいった桜井さん(当時はおばんさい屋をやっていたそう)は打ち上げに参加&曽我部さんのホテルの部屋で一夜飲み明かしたものの、その後とくに連絡を取らず。4年後に書き上げた小説をもって、曽我部さんのDJしているところへ会いに行き。なんて言って名乗ろうかなーと思っていたら、「あ‥!京都の‥!」と憶えていてくれて。以来、親交を深めているそう。「よく憶えてましたねー」と言われて、「自分にとって印象深い顔なんだよね」。

*2:曽我部さんが十年以上音楽を続けているのに対し、桜井さんが小説を書き始めてからは五年くらいなので。曽我部さんも「五年目くらいだったら俺もこんな冷静に考えることなく没頭して作っていた頃だよ」と言っていた

*3:まったく余談ながら乙女の講座スタッフのYさんがいらしていて(そりゃあいらっしゃるよなあ考えて見れば)。Kが「あの人が‥」と感慨深げだった