明治任侠伝 三代目襲名(1965)/緋牡丹博徒 お竜参上(1970) @新文芸坐

〜鬼才・加藤泰 情念の鮮烈と奔流〜
昨日観た「喧嘩屋辰」があまりにおもしろかったので、予定を変更して新文芸坐へ。今日上映の2本はどちらとも脚本に鈴木則文がかかわっていて、しかもトークショーがあるのです。うっうっ、たのしみ!しかしこうして可愛い日記からそれてゆくのね‥(泣きながら納得。そして承諾)。
今日観た2本は、どちらもおもしろかったけれど、チャクラが開くにはいたらず。でもまあ、そうそう開かないのがチャクラだよな‥。

::::::::::::::::::::::::::

明治侠客伝 三代目襲名 [DVD]

明治侠客伝 三代目襲名 [DVD]

任侠映画の金字塔らしいです。すみませんわたしにはヤクザルールがいまいちわからず。3代目になってから、ヤクザ業と土建業を別会社にしたのだけれど、賭場を持たず土建業に精をだすヤクザ三代目‥。まるっきり堅気に見えるのだけど、影(画面に出てこないところ)で悪いことをしているのだろうか‥。別の任侠映画でも同じ疑問を持ったことあるので、一度ヤクザ稼業について、キチンと勉強しておくべきなのだろうな‥。
そんな疑問以外はたのしく観ました。映画らしい豪勢な画面を満喫。お!お!お!かっこいい。目を見張るカットがたくさん。藤純子が桃を渡す場面、桃がやけに大きく見えて、あ、藤純子ってわりあい小さいんだ‥と気付いてキュンとしたり(するな)。そしてクライマックスの殴りこみ!今まで押さえて押さえてきたものがぶわーっと炸裂するさまは圧巻。見事な映画仕事。

::::::::::::::::::::::::::

緋牡丹博徒 お竜参上 [DVD]

緋牡丹博徒 お竜参上 [DVD]

緋牡丹博徒シリーズ6作目。前作を観ていない(というか1作目→感想と外伝→感想しか観てない)ので、前作の続きにあたる冒頭の展開に戸惑いながら。リズムよく転がってゆく物語が心地よかった(京唄子鳳啓助のやりとりが可笑しくてイイナー)。熊坂虎吉に笑わされた直後に急直下して残虐シーンになるあたり、さすがだ。しかしお竜は緋牡丹を見せてはくれなかった。
新文芸坐に飾ってあった当時(1970年)のプレスシート(?)には、波に乗りかけた菅原文太をこの映画でばーんと売り出しましょう的なことが書かれていて感慨深かった。しかし若き日の菅原文太シベリア文太によく似てる‥。ごめん。順番が逆なことはわかってる‥。
以下トークショー&自分メモ。長くなるのでたたみます。

::::::::::::::::::::::::::

トークショー鈴木則文さん(映画監督)、井川徳道さん(美術)、山根貞男さん(映画評論家)】
山根さんが司会進行役として、加藤監督といっしょにお仕事をしたお二人に質問を投げかける形式。まずは井川さんにお話をうかがう。
井川さんは今日上映だった「三代目襲名」「お竜参上」、昨日の「喧嘩屋辰」、ちょうど観たばかりのものをメインにお話ししてくださったのでありがたかった(ってそういうタイミングで上映作品をセレクトしてるのだよなあ。うむ)。加藤監督はローアングル好きだから、天井までセットをきちんと組んでいて驚いたんです、と山根さん。そ、そうか‥。ローアングルにはローアングルの苦労があるのねえ。天井か‥。
「喧嘩辰」の主役ははじめ別のもっと有名な俳優さんを使うことで計画していたもののその話が流れ。ギャラ分の予算(差額)が浮いたので、いつもよりちょっと大目に美術予算に回せてもらえてうれしかった(でもまだまだ足りないんですけどね)とか、でも主役が××だったら(伏字にしたわけではなく名前を忘れただけですすみません)あの喧嘩屋辰にはならなかったよね(鈴木監督)とか。予算の関係で大阪駅は、改札側から駅前の広場を見るカットばかりなのだけど、急に広場から駅を見るカットが必要になって、あわてて書割を作り対処して、「1場面だけだからいいか‥」と思ったら何場面か使われることになり冷や汗をかいたこと。「三代目襲名」では脚本にひとこと「‘蛸の松’」とあるので、一生懸命資料をさがしてセットをつくりあげたとか(桃を渡すシーン。風情ある武家屋敷の造りです)。脚本を書かれた鈴木監督に「‘蛸の松’がああいう外観だってことはご存知だったんですか?」と山根さんが質問すると、「ン?全然知らなかった。セットを見て、ワー!とね」。
「加藤さんに、『あそこのシーンがよかった‥!』と言うと、『あれはB班(監督:倉田準二)』」とか言われてね‥。でもお話をうかがえばうかがうほど、映画ってたくさんの人の手で作られてゆくんですね‥」(山根さん)。三代目襲名についてのくわしい解説はこちらをどうぞ(→☆)。
鈴木監督には、まず、「お二人で脚本を書かれるってことはどういう役割分担なんですか?」。興味津々で身をのりだすも、「加藤さんとのときは、とくに分担とかなかったんだよねえ」とはぐらかされる。「でも、喧嘩屋辰、あれは同じ男女が3回結婚式をあげるっていう話じゃない。ああいうロマンチックなのは則文さんでしょ?」と井川さん。
おもしろかったのは、「お竜参上」について。「加藤さん、真面目だから、前作の終わり方が気になってるみたいで。あの娘はあのままでいいのか?なんて考えちゃうんだよねえ。気にしないでいいんですよーて言ったんだけど。うまく(脚本が)書けないって呼ばれて見てみたら、娘とお竜のことばかりで、ぜんぜん任侠ものじゃないの。菅原文太だってぜんぜん出て来ないんだから。それで一緒に書き始めてね‥。だいたいあの人は真面目なんだよ」。鈴木監督のこの発言がおかしくって、でも、じゃあなんで前作(観てないけど)はそんな終わらせ方にしたんだろ?って思ったら、前作は脚本も監督も別の人なのね。たしかにそれは、気にしなくてもいいわー‥。
さて、わたしが一番おかしかったところは。長いお話(40〜50分も!時計見るまで気づかなかった。たのしい時間てすぐ過ぎる)のしめに、「では、加藤泰さんの映画について‥ひとこと‥」と山根さんからコメントを求められ。井川さんが「今までの時代劇セットというのは、‘明るく楽しい時代劇’というセットを求められていたのだけれど。加藤さんではじめてリアルなセットを求められれるようになって‥(満足そうな笑顔)」と言い、鈴木監督は。
「加藤さんもなかなかいい監督だと思うんだけれど、新文芸坐、来月、マキノ雅弘特集あるから!これは面白いから!観たほうがいい」。
あっけにとられる山根さんに、「加藤さんはだいたい、ちょっと、堅苦しいでしょう」。これには吹いた!吹きました(吹かいでか)!そしたら井川さんが、「マキノさんは面白い方ですよねえー。わたしも3作(?)ほど一緒にお仕事させていただいたんですけど。打ち合わせに行っても、2時間くらい、最近あったおもしろいこととか話してるんですよ。2時間後くらいに、なんで今日集まってるんだっけ?なんて言い出して‥。あの人は(人自体が)おもしろいですよ!」。「いやいや今日は加藤さんのお話を‥」としめようとする山根さんに、「あなただってマキノさんの本書いてるじゃない!いや、あの本はおもしろかったなー」と鈴木監督。いやあ映画って、ほんとにいいものですねえ(困ったときの、淀さんまとめ)。

::::::::::::::::::::::::::

トークショー時、ほぼ満席だった。途中入場できなかっただけ?入場できない人もいたのか?トークショーが終わってから、客席に入ってくる列があった。それでお客さんは年輩の男性が多く、よって場内は地味つうか無彩色なかんじだった。こういうとき、はきだめに鶴になりたいと思いながら、ふつうにはきだめと同化してしまうのがちょっとさびしいわー。今日なんてグレーのワンピース着てたから、すすんで無彩色。失敗した‥)

::::::::::::::::::::::::::

【自分メモ:緋牡丹シリーズ覚え書き】
居並ぶ兄さん、お見知りおきを! ぱっくり割れた着物の下で 牡丹の花が真っ赤に燃えた 二つ異名は緋牡丹お竜 仁義も切りやす ドスも抜く
1作目 『緋牡丹博徒』 1968 監督:山下耕作 脚本:鈴木則文 ゲスト:高倉健
2作目 『緋牡丹博徒・一宿一飯』 1968 監督:鈴木則文 脚本:野上龍雄鈴木則文 ゲスト:鶴田浩二
3作目 『緋牡丹博徒花札勝負』 1969 監督:加藤泰 脚本:鈴木則文・鳥居元居 ゲスト:高倉健
4作目 『緋牡丹博徒・二代目襲名』 1969 監督:小沢茂弘 脚本:鈴木則文 ゲスト:高倉健
5作目 『緋牡丹博徒・鉄火場列伝』 1969 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫鈴木則文 ゲスト:鶴田浩二
6作目 『緋牡丹博徒・お竜参上』 1970 監督:加藤泰 脚本:加藤泰鈴木則文 ゲスト:菅原文太
7作目 『緋牡丹博徒・お命戴きます』 1971  監督:加藤泰 脚本:大和久守正鈴木則文加藤泰 ゲスト:鶴田浩二
8作目 『緋牡丹博徒・仁義通します』 1972 監督:斎藤武市 脚本:高田宏治 ゲスト:菅原文太
外伝 『シルクハットの大親分』 1970 監督:鈴木則文 脚本:高田宏治
外伝 『シルクハットの大親分 ちょび髭の熊』 1970 監督:鈴木則文 脚本:高田宏治
(参考:→☆