エル・スール（1983） ＠ユーロスペース

〜ビクトル・エリセ　ニュープリント上映〜

エル・スール [DVD]

昔観た映画の印象が胸騒ぎとなって、ずっと胸に残っていた「エル・スール」。十数年ぶりに見て、あの胸騒ぎが、あのときの自分の、子供時代の名残であることに気付き、言葉を失った。あまりに磨かれた世界は鏡のようになってしまうのかしら。もはや映画なんだか世界なんだかわからない、わたしのエル・スール。
「ちいさい頃はお父さんのことがわかっていたのかい？」。お父さんはなんておそろしいことを言うのだろう。静かに足元から裏返ってゆく世界。おそろしいけれど、痛みと喪失なしに大人になることなんてできない。それがわかるから、胸騒ぎで眠れなくなる。犬の遠吠えで眠れなくなる。わたしの知っているあなたは誰ですか。
わたしもいつか南へ行くのだろうか。その後にはどんな「エル・スール」が見えるのだろう。いつ観ても新しいものが見えそうなのは、この映画がやはり世界だからなのだと思う。