上野伊三郎+リチ コレクション展 @目黒区美術館

〜ウィーンから京都へ、建築から工芸へ〜


わが国のモダニズム建築の揺籃期、関西初の建築運動となった「日本インターナショナル建築会」を組織した上野伊三郎(1892-1972)は、ブルーノ・タウトを日本へ招聘した人物として、伊三郎と1925年に結婚して日本に渡った上野リチ(Felice "Lizzi" Ueno-Rix, 1893-1967)は、 ヨーゼフ・ホフマン率いるウィーン工房で培った創作理念をわが国へもたらした人物として、それぞれ日本の近代建築史やデザイン史に名前が刻まれつつも、ふたりの活動の全容はこれまでほとんど知られてきませんでした。本展「上野伊三郎+リチ コレクション展」では、こうした上野夫妻の知られざる足跡に光をあてます。(→HP

とても素敵な展覧会だった。入ってすぐ、リチの描いた『ウィーンのクリスマス市』という絵巻の、あまりのかわいさにこうふんして顔が赤くなった。かわいいと言っても甘くないの。生真面目で潔癖で(でもちょっとヌケのある)上質なかわいらしさ。少女性かなあ。これ以降もリチの作品の上質なかわいらしさに、ひたすら感動。写真で見るリチの姿が、少女のようなはにかみのある表情なのもいとおしい。このひとはよく、この魂を持ち続けていられたなあ。偉大だなあ。この面から旦那さん(上野伊三郎氏)の偉業をたたえたくなったけれど、ふつうに仕事を讃えねば。ええと建築図面自体(手書き文字がいきなり!伊三郎フォントに出来そう)モダニズムあふれる作品になっているのがすごいな。スターバー(夫婦ふたりで手がけたファンタジックなバー)、実物はさぞ素敵だったんだろうなあ。大きな写真だったのでほんの少し、実物をのぞいているような気持ちになれてうれしかった。素敵づくしでイイモノ見ミタナア。しあわせな時間を過ごせました。
自分のなかで興味深かったのは、リチは七宝焼きで小物入れやマッチ箱カバー(!)を作っていたのだけど。完成されたマッチカバーはたしかに綺麗なのだけど、横にあるスケッチ画のほうが魅力に満ちているのはどうしてだろう?七宝焼きにして仕上げてしまうと、みっちりして余白がなくなってしまうから、(原画ほど)訴えてこなくなってしまうのかなあ。でも、そういうふうに自分の考えとすこし違って出来上がるところに、ものをつくるたのしみがあるのかなあ、そもそもそれを考慮したうえのスケッチ画なのかなあ。なんにしろわたしは余白を愛するのだなあと気付いた。未知な部分があるほうが愛情を持ちやすいのかしら。
俗なことを言えば「そらまめ」テキスタイルで日傘を作ってほしいよ。夏の着物をあつらえたいよ。展覧会終了間際だったので図録が売り切れていて大ショック。せめて絵葉書を買い占めたいと思ったら、絵葉書は作っていなかったようでまたショック。こんな素敵なもの見たら、なにかおうちにつれて帰りたいと思うのが人情なのに。無念。くやしくてそらまめのことばかり考える。「そらまめ」「スィートピー」とつる科の植物の美しさを図案として称えながら、葡萄の図案がないのはなぜだろうとか考える。葡萄は完璧すぎて創作意欲がわかなかったのかしら。とにかくつるのある植物は美しい。頭のなかの「そらまめ」テキスタイルのつるがぐんぐんのびてくる。美しくもおそろしい光景にうっとり*1

*1:どうでもいいけれど、本日5/30の誕生花は、オリエンタルポピー花言葉「妄想」だそうです。美術館行く道にある花屋さんにでっかく「妄想」と書いてあったので二度見してしまった