プレイタイム(1967) @K'sシネマ

プレイタイム ( 新世紀修復版 ) [DVD]

プレイタイム ( 新世紀修復版 ) [DVD]

オリジナル版はカラー70ミリの152分という長尺だった。膨大な時間と製作費を投入して、タチが自身の笑いと美意識の全てをフィルムに焼き付けた超大作。タチ信奉者にとっては、『イントレランス』『グリード』級の大傑作である。
再就職のためにパリに出て来たユロ氏とアメリカ人観光客が出会い、すれ違う一日の出来事。パリの街にネオンがひとつずつ灯っていくラストシーンに訳もなく涙があふれてしまう。
/words by Yasuharu Konishi 89年『ぼくたちの伯父さん』上映時チラシより

今回この日記を書くために昔のチラシを見てたら、上で引用した「ラストシーンにわけもなく涙が‥」がほんとにそのまんまだったので、呆れるやら可笑しいやら。でも、街の車が回転木馬に見えたら、すずらんが揺れたら。そりゃ泣いちゃうよ。わけはあるんだよ。

巨大なタチヴィル*1のあちらこちらで、行われる人々の営み。ほんとにアホかと思うほどの豪華なセット、完璧なまでにモダンな色彩、そのなかでくりひろげられる、ちいさなギャグ(?)のささやかさたるや。文字にしたらほんとに呆れてしまうようなこと、しか、おこらない*2。退屈するひとは退屈するだろうな。だってそのギャグすら無秩序、ほとんどアナーキーなんだもの。ユロ伯父さんたら大金かけてこんなことしたかったんだ。なんて無謀なの。理想主義ってふだんは敬遠するのだけれど。こういう純粋さにはお手上げ。愉快なきもちでクスクスクスクス、させてもらいます。しあわせだなあ。
「プレイ・タイム」。さて、なんて訳す?「あそびの時間」?「おまつりの時間」?ラストの回転木馬すずらん。そこにかさなるおまつりのメロディ。いつだってどこだって、素敵な音楽とすこしの心意気で、この世の時間はプレイタイムになりうるんだもの。ここで泣かなきゃ嘘でしょ。

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(おまけ)
ジャック・タチのことを知ったのは、たぶん1988年。雑誌オリーブに連載していた仲世朝子の「のんちゃんジャーナル」だった。翌年の89年、今はなき六本木シネヴィヴァンで特集上映があり、友達と二人して、六本木に緊張しながら「ぼくの伯父さん」を見た*3。想像以上にかわいくって洒落ていて、クスクス笑いながら興奮した。友達のお母さんが、やっぱり若い頃に「伯父さんの休暇」を見て、すっごくよかったのよーと見送ってくれたという話が、きらきらした気持ちを高めてくれた。映画館で買った「VISAGE」という雑誌のなかで、沼田元氣という名前を覚えた。映画館で買ったTシャツは、地味に勝負Tシャツとなり、地味に活躍した。いろいろなおまけをつれてくる映画だった。いろいろなおまけをくれて、生活に新しい扉をつけてくれる映画はありがたい、しあわせな宝物だと思う。あれこれ思い出していたらすべてに肯定的な気持ちになり、ついぽちっとしてしまった。来月のカード請求が憂鬱。

ジャック・タチの世界 DVD-BOX

ジャック・タチの世界 DVD-BOX

*1:この映画の興行成績の悪さは、このセット費用が莫大すぎたことが原因だと思う‥。映画の視点がアレなことは認めるけど、タチの理想が暴走しなかったらかぶらんですんだ汚名だと思うとなんだか悔しいワー

*2:今思い出して、好きだなアと思うのは、薬屋さんのネオンのおかげで、食べ物がひどく不味そうな色合いになってしまうところ。←しかし色合いをさしひいても不味そうだろそのカタチ‥という形態なところ。‥ほら文字にするとほんとなんじゃそりゃ、でしょ

*3:ちなみに別の日に「休暇」「プレイタイム」も見たけれど、当時いちばん難解に思えたのはもちろん「プレイタイム」。‥いや今でもこの3本のなかではプレイタイムが一番難解だと思うんだけど。難解なくせにいちばんタチらしさが結晶化されてるのがすごく純粋だな、純粋なものって興行には向かないんだなって思うんだけど