父からの贈りもの 森鴎外と娘たち展 @世田谷文学館

  
わが国の近代文学の興隆期に偉大な足跡を残した森鷗外(もり・おうがい 1862-1922)。明治国家の中枢で軍医、官僚として生きながら、おびただしい数の外国文学を翻訳、紹介しつつ多種多様な題材をテーマに創作の筆を執り、新しい時代の思想や精神を表現するにふさわしい日本語の文体を作り上げ、あとに続く者たちに多大な影響を与えました。
いっぽうで家庭人としての鷗外はきわめて子煩悩な父親でした。その濃やかで大きな愛情に包まれて育った子どもたちはそれぞれに個性を伸ばし、森茉莉小堀杏奴の二人の娘はやがて小説家・随筆家の道を歩むことになります。
姉の森茉莉(もり・まり 1903-1987 代沢、経堂に居住)は、2度の離婚ののち50代なかばでデビュー、『贅沢貧乏』『甘い蜜の部屋』等で絢爛な美の世界を展開し、特異な存在の作家となりました。片や、妹の小堀杏奴(こぼり・あんぬ1909-1998 梅丘に居住)は20代で『晩年の父』を上梓、随筆の分野で活躍しながら、夫である画家・小堀四郎を生涯献身的に支えました。ともにデビュー作は父の思い出であり、その後も父・鷗外は姉妹の作品の重要なモティーフとなりました。決して平坦とはいえない彼女たちの歩みの中で、心の拠りどころとなったのは、大好きな父、「パッパ」に愛されたという確かな記憶だったのかもしれません。
姉妹とゆかりの深い世田谷で開催するこのたびの企画展は、<父性>をキーワードに父・森鷗外森茉莉小堀杏奴それぞれの軌跡と作品に迫る初めての試みです。どうぞご期待ください。(→HP

森茉莉ファンなもので。心待ちにしていた。森茉莉ファンなもので。そりゃあもう充実。ふわふわうっとりながめてくるくる。たのしかったー。森茉莉ファンなもので。小堀杏奴関連は不思議なきもちで眺めた。文章に興味を惹かれないのはなぜだろう、茉莉さんと顔はこんなに似てるのに。森茉莉ファンなもので。鴎外のむせかえるような罪作りな愛情をふくざつなきもちで眺め‥でもなんだかんだいってうらやましいしあわせな愛情だ。会期中にもう一度行きたい。
会場にはいっていちばん最初の展示が鴎外が妻にあてた親馬鹿レタア(昔ひたすら衝撃をうけたところ(→☆)。原文は旧仮名で破壊力ばいざう←これ旧仮名?)。ふふふと笑いながら馬鹿な想いのかわいらしさに胸がつまって涙ぐんでしまった。いちばん最初の展示でこれだもの。
どうしても茉莉さん関連の展示ばかりを熱く熱く見てしまう。茉莉さんだけの展覧会があったらどんなに素敵だろう‥。でもこんな狭いスペースの展示でも新聞のテレビ欄(観覧スケジュール?が書き込んである)が登場してしまうんだもの、無理かしら‥。狭い場所の展示だからこそのむせかえる濃密さ、これはこれで贅沢なのだけど。見慣れたチャウチャウのぬいぐるみ(世田谷文学館の常設展示?)も愛らしく見えました。

:

今回の展示にあわせた喫茶どんぐりのメニュウは、「まるぼうろセット」。明治のハイカラ味は、やさしくすこやかはかない甘さ。森茉莉の展覧会があるとしたら特別メニュウはなにかなあ。エバミルクにお砂糖をまぶしたもの?銀のスプーンにひとくちぶんだけのってくるの。絵としてはおもしろいけど美味しいかなあ。板チョコのグラニュウ糖まぶし‥。甘い、甘すぎる蜜の部屋。