新しい神話がはじまる 古賀春江の全貌 @神奈川県立近代美術館

  
古賀春江(1895-1933)は、本名は亀雄(よしお)といい、福岡県久留米市の寺院の長男として生まれました。17歳で画家を志して上京し、キュビスムシュルレアリスムなど、同時代のヨーロッパ美術に学び、二科会を主舞台として大正から昭和の初めにかけて活躍しました。モダニズムが隆盛した時代、38歳という若さでこの世を去った画家は、そう長くはない画業のなかで、「カメレオンの変貌」といわれるほど、画風をさまざまに展開させました。そこには、つねに新しいものを追いかけ、変化を求めつつも一貫して変わらない独自の世界観がありました。 また、古賀は文学にも傾倒し、絵画作品の解題詩をはじめとしてさまざまな詩を残しています。絵画と詩が古賀のなかで、どのような関係にあったのか。今回の展覧会では彼の詩にも注目し、画家であり、詩人であった古賀春江の生涯と芸術を紹介します。
水彩、スケッチなどは、半期ずつの展示となります。(前期:9月18日〜10月17日、後期:10月19日〜11月23日)(→HP

まずは水彩画のコーナー。初期の絵はラフであまり特徴がないのだけれど、みずみずしく心にすいっと切り込んでくる。「長編小説ではなく詩歌」「センチメンタルな情調の象徴詩」などという言葉を捧げていたらしく、本人も水彩画に愛着があったのでしょう。地味に見応えがありました。次のコーナーは出タラメな画の決意を深くしたという「埋葬」などの油絵。鮮やかな色使い、構図の妙など意思の強さが興味深い(けれどわたしはあまり好みでない)。次の章、クレーに影響を受けたという作品群(水彩・油絵とりまぜ)は、なるほどクレーの影響を受けながらも古賀イズム‥。ほんのり可愛らしく叙情性があり、透明でシュール。誰かの夢とつながっちゃったような奇妙な感覚。ここの世界がいちばん好きなのに、ぐんぐん飛ばして最後の部屋は、雑誌や絵葉書から素材を組み合わせたモンタージュ作品群。ネタ元である絵葉書やグラビアを公開してくれるのが気前いい。どんどん飛躍するまぶしいイメージ。わくわく息をのむ。見事な到達点に思えるけれど、実際は通過点に過ぎないのかもしれない。次の展開を見せてくれなかった享年38歳という短い生涯が悔やまれる。
見応えのある展覧会でした。

作品とはあまり関係ないけれど、展示の解説(詩が素敵素敵素敵)のなかに、「川端康成とは犬好きという共通点もあり交流が深かった」とか「体調が悪くなり厭世的人嫌いになり小鳥や犬を熱愛した」という記述があり、少し気になった。犬を熱愛‥?どこからが熱愛‥?