「描く!」マンガ展 〜名作を生む画技に迫る―描線・コマ・キャラ〜
「描く」「人に見せる」「たのしむ」という、マンガの本質的な営為に着目し、優れたマンガ家たちの卓越した作画技術を紹介するとともに、その時代背景をさまざまな視点から見つめ直します。
出品作家: 赤塚不二夫、石ノ森章太郎、手塚治虫、藤子不二雄Ⓐ、水野英子、あずまきよひこ、さいとう・たかを、島本和彦、竹宮惠子、平野耕太、PEACH-PIT、陸奥A子、諸星大二郎
実はこの『描く!マンガ展』、春先の高崎での展示も観ました。あの頃(3月末)には、7月なんて、そんな先まで待ってられるかい!という気分だったのです。あと、どうにも八高線への思いがつのって*1。
高崎では美術館の構造上、漫画家さん2人で1部屋ペースの展示だったのですが、陸奥A子先生は、諸星大次郎先生と同じ部屋(ここは‥まぁいい)。しかし陸奥A子(前半)→諸星大次郎(全)→陸奥A子(後半)という展示順は「解せない‥!」。陸奥A子ファンだけ、なぜこのような試練を受ける?
試練はさておき、この展示でわたしを驚愕させたのは、初期の名作『黄色いりぼんの花束にして』のクライマックスシーン。
(この展示、例外はあるものの基本「撮影OK」!でした。太っ腹)
*2
写真でわかりますか?主人公・黄菜ちゃんの想い人・堀口良雄さんの傘の位置。直前に描き直したっぽいんですよね。
まあ、黄菜ちゃんはびっくりして傘を落としちゃっただけで、その傘を拾えばいいんだから元の位置でも間違いではないし、ぶっきらぼうな高校生男子(女嫌いといわれていた‥)はむしろ元の位置のほうが自然かもしれないけど、それではおとめちっくの名がすたる。
この原画の修正をはじめて見たときは、「堀口良雄クンのキャラクター設定が別モノになってしまう‥。これでいいの!?」「土壇場でこう描きなおすなんて、おとめチックとは共同幻想だったの?」と衝撃だったのですが、2度目の今回は心構えが出来ていたようで、
この傘の位置は時間軸の違いかな‥(はじめびっくりして傘を落としちゃった黄菜ちゃんを描いたけれど、その一瞬後の傘をさしかける場面に変更した)?と若いふたりを祝福する鳩さんモードに変わりました。実際のところは作者でないとわからないのですけどね。
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『描く!』マンガ展の素晴らしいところは、そうそうたる出品作家が豪華にしてバラエティ豊かで、それぞれの作家性をくっきり浮かび上がらせること。
陸奥A子世界のあの細い描線は、頼りないようでなんてりりしいのだろう。意思表示や情念がちらちら見え隠れするようで、これは陸奥A子展で陸奥A子の原画ばかりを見続けても出てこない感覚だったのですごく有意義でした(?)。
『描く!』マンガ展、バラエティ豊かで眼福です。お近くに来られたらぜひ。わたしもまた後期行くつもり。こんな豪華な機会はもうないだろうから。 陸奥A子ファンからとしてしか『描く!』に触れる気力がないのだけど、ほんとどの先生のコーナーも、見ごたえしかないです。
そして、田中圭一氏の解説がめっぽうおもしろくためになります!描く人にしか発見できないであろう言われて納得のあれこれ。読み手(自分)が無意識に感じ取っていることを言語化してくれて目からウロコです。トンチと漫画愛にあふれていて敬服しかありません。