全身小説家(1994)/ゆきゆきて、神軍(1987)
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撮影開始時には癌が発見されているので、闘病ドキュメントと見えないこともない(一旦摘出手術に成功するがのちに転移。彼の死で記録は終了する)。でも井上光晴が闘いを挑んでいるのは病ではなく、彼の人生そのもの。すさまじいバイタリティ、そしてそれにともなうチャーム(すごい余裕ね‥。こりゃもてるわ)。彼の死後、彼の創作が、小説だけでなく自分史にも及んでいることが明らかになるのだけれど、関係者はみな、「しょうがないなあ、嘘つきみっちゃん」と笑って許す。やっぱりチャームは偉大だ。あと、よい人生にはよい伴侶が重要なのかなー。支える奥さんの姿が凛々しく美しかった。
嘘つきみっちゃんは小説の作法として、「たとえ自分のことを書く場合でも、実際おこった事柄すべてを書くことはしません。構成など考えて、書くシーン・書かないシーンを選びます。本人にとって恥ずかしいと判断したことには触れないわけで、途中編集が入るのですから、それはもうフィクションです」というふうに説明していた。これをドキュメンタリー映画に残すってことは、そういうことだよねえ。ドキュメンタリーを、撮るって観るってなんだろう。なにをどこまで撮るつもり観るつもりなんだろう。撮れるつもり残せるつもりの観るつもり。などとつらつら考えながらの、濃い時間。長い映画なのに見応えあるのに、早くも「また観たい」と思っているのは、たぶんたくさんの見落し(?)があることにうっすら気付いているからなのかな。わたしはなにを観てたのかな。ものを見るって‥ (以下思考のループ)。
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1回目は、カメラが追いつづける奥崎謙三氏の、パワーと狂気、圧迫感でいっぱいいっぱいだったのだけど、2回目ということで、負傷(?)した奥さんのほんのり誇らしげな「わたしがいないとたいへんだったわよ」とでも言うような表情(いや、いてもじゅうぶん大変なのだが)とか、戦友の母の死を悼む奥崎さんの横顔などにも目がいき、多少視界がきくようになった。と・いうか、初めてこの映画の全体像が見えた(おもしろいじゃん!)。いやだー。この調子ではまたいつか観に行くはめに‥なってしまう。好きじゃないのに。なにこの引力。カメラの魔力というか、どんどん脱線気味に暴走してゆくスリリングさ‥。だがこれをおもしろがっていいのか‥。不本意。
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映画終わって外に出たら、帰り道のお客さん(女性)が、「いろんな人が‥ いますねえ‥」と、あまりにざっくりした、だが的を得た感想を口にしていておかしくなった。それ言ったらすべてが終わっちゃうよ、でもほんとにそうだよね。すごいものを見たときだって、言えるのは、こんなことだよね。
*1:2回目は、イベントのシークレット上映(特にこころの用意なく見るはめに‥)だったのだけど。→過去日記:新文芸坐の夏合宿2007