淑女と髯(1931)/青春の夢いまいづこ(1932)

名匠 小津安二郎 銀幕の芸術@新文芸坐

急に時間があいたので、ワーイ!映画観に行こう。うきうきスケジュールをチェックするものの、ヴェーラの「二匹の牝犬」はどう考えても間に合わない*1新文芸坐の小津特集は、観たことのないサイレント。んんん、夜の回は弁士も音楽も付かないのか。サイレント映画は何回か観たことあるけれど、「ピアノ+弁士付」のプチイベント上映が主で、完全な無声映画は未体験。どんなもんだろ?無声‥。まさか場内がシーンとしてるわけじゃないよね‥?
NO! 無声ちゅうたら無声ちゅうたら音はしないんじゃい。したがってシーンとしてるんじゃい。ほんとにシンとしてるもんだから、さいしょは緊張しておたおたしてしまった(なぜなら休憩時間中に食べ終わるつもりだったパンを食べ終わらないままに映画がはじまったから)。

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淑女と髯 [VHS]

1931年/無声/74分/出演:岡田時彦・川崎弘子・伊達里子・月田一郎・飯塚敏子
小津のペンネーム、ヂェームス槇がギャグマンとしてクレジットされているナンセンス・コメディ。顔じゅう髯だらけのバンカラ青年が就職のために髯をそると実はハンサムで、タイプの違う3人の女性に言い寄られる。

顔中髯だらけでクマみたいだったバンカラ青年が、髯をそると実はハンサムでモテモテになるだなんて。ナンセンスというよりシュール*2。結末は他愛なさすぎる。この他愛のなさをたのしむには、現代人はどうしたらいいのかね。映画と自分のあいだに距離があったせいか、ほら場内すごく静かだよ!的に静かさに気が行ってしまった。
感動したのは、髯をめぐる三人の女性の美しさ。特にお嬢様のながァい袖の着物と、不良のモダンガール*3の洋装。華宵の絵のよう。高畠華宵の世界は絵だから成立するのかと思っていたけれど、二次元にもなるのねえ(しかもねらったわけではあるまいに)。1931年の日本は、別の宇宙のよう。

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青春の夢いまいづこ [VHS]

1932年/無声/85分/出演:江川宇礼雄田中絹代斎藤達雄飯田蝶子・武田春郎・大山健二・笠智衆
ひとりの娘をめぐる2人の男性の友情を描く。学友として学園生活を謳歌し卒業後、堀野は会社の跡取り、斎木は平社員となる。卑屈となった斎木は、堀野が自分の恋人が好きだと知り、身を引こうとする‥。

前半は学園コメディで、後半はメロドラマ。メロドラマって、普遍というか時空を超える。そう気付いたのは映画を観ているあいだ沈黙がまったく気にならなかったから。ふつうに映画にはいってしまったのか、いろいろな音が聞こえるような気がした(じゃあいい話かというと、「アンタらお互いに悪いよ‥」とうなだれるしみったれた話なんだけど)。フルーツパーラーのロゴマークだとかTシャツのデザインとか、すみずみがモダンデザインでうれしくなった。

*1:すっごい観たくて、無理を承知でシュミレーションする悲しさよ。終業同時に更衣室まで走り、3秒で着替え、全速力で駅まで走れば間に合わないこともない‥けどそもそも終業時間に仕事が終わる見込みなし

*2:その手があったか!

*3:モダンガール、上品に、でもきっちりと、カツアゲしておりますのよお姉さま!