ライブテープ インターナショナル・バージョン(2009) @東京国際映画祭(シネマート六本木)

日本/1時間14分/監督:松江哲明/撮影:近藤龍人/録音:山本タカアキ/唄と演奏:前野健太/演奏:DAVID BOWIEたち/参拝出演:長澤つぐみ
 
2009年・元旦。東京・吉祥寺。初詣でにぎわう武蔵野八幡宮で、突如ギターをかき鳴らし歌いはじめるミュージシャン・前野健太。そこから吉祥寺の街の中を唄いながら歩きはじめ、最終目的地・井の頭公園のステージで、待ち構えていたバンドメンバーと合流し演奏するまでの全16曲を、74分1カットで記録した、前代未聞のライブドキュメント。それが『ライブテープ』である。(→HP

ぶっきらぼうにしてなんと的確なタイトル。ライブテープ。生きている記録。
前野さんの歌は、街の風景に雑踏に、とてもよく似合う。街も生きていて、人がすれ違う場所だからかな。歌が、街に溶けるしあわせな時間。この映画ではじめて前野さんの歌に出会う人がうらやましくてしょうがない。どんな感想を持つのだろう。
一般公開前なのでたたみます。
‘元旦の吉祥寺の街を、ギターを持った前野健太が歌いながら歩く−’という概要(?)から、お正月、冬のさみしげな街のロケーションを想像していたら違った。けっこうにぎやかな通りを、しっかり歌いながら歩いていたのでびっくりした。82%、120%。あの状況できっちり歌えるだなんてすごい。プロというか、ほんとに歌を歌う人なんだな、と感動。
わたしは今年の2月に友達に前野さんのライブに誘ってもらって、唄のとっつきやすさとは裏腹なライブの雰囲気(なにか張り詰めていて近寄りがたい)にけっこうな衝撃をうけました。以来3回ほどライブに行き、CDでも何度も聴いたあの歌詞を英訳したらどんなになるんだろ?(国際映画祭なので英語字幕がつくのです)、という好奇心でひとあし先に映画を観ました。歌詞の英訳は興味深かった(直訳すぎるけど文法はいいのだろうか‥という驚きふくめて)けれど、日常会話の訳がふつうに愉快だった。「前野さん!」という呼びかけが「KENTA!」になっていてフレンドシップに胸打たれたり、通りすがりの子供の驚き声「えええぇ!?」(あるいは「へええぇ!?」)が「WOW・・・REALLY?」になっていて、マジかよと言いたいのはわたしのほうだとずっこけたり。おもしろかった。
以下ネタバレかもしれないのでさらに白文字(しつこくてすみません)。
全篇ワンカットワンカメラだなんて無茶だなあ。ほんと無茶‥。でもやってるよ、やるんだよ。そう思ったらどんどん感動してきてしまって、鬼気迫る「友達じゃがまんできない」*1では、もう、どうしたらいいのかわからないくらいしびれてしまった。ほんとに、街には世の中には、こういうささやかな奇跡がよろこびがあるから、毎日生きていけるんだなあ。
ちょっとどうなんだろうと思ったのは、「天気予報」前のインタビューというか語らせ部分。今までほぼ説明なしで見せてきたのにここだけ長い会話がきてリズムが狂うし、テーマをここまであからさまに解説ってどうなんだろう‥と思ってしまった。映画がよかったなと思った人がパンフレットを読んで、そこに書いてあって理解を深めるくらいの距離がよかった。(でもこのインタビュー中の前野さんの表情の変化(素)がとても魅力的なのは事実なので「ここ要らない‥」とも言い切れない)

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質疑応答でおもしろかった箇所いくつか。

サングラスをはずしたらどんな顔?こたえは眼鏡。

ワンカットワンカメラの苦労談を聞かれ(当初は3テイクくらい撮って編集するつもりだったそう。でも、たとえば60分続いちゃったら、もうそこからつなげられませんよ、とカメラの近藤さんに言われ*2、ワンカットでいくことにしたそう)、ほぼゲリラロケだということが発覚。びっくり。
特にラスト(おおラスト!ここがぽしゃったら今までの全てがぽしゃるよのラスト)の井の頭公園は、撮影しようと思い立ってから撮影日までの期間が短かったため申請が降りるわけもなく、100%ゲリラ。お正月だからか?大きな音はダメ、と言われ、リハ−サルとして「実際演奏してみたら、何分で警備員さんが来るか」を計って、「やっぱ無理!」となったとか。ラストをどうするか解決できないまま撮影がスタートして(冒頭のキモノガールの参拝のために、スタッフが2時間?3時間待って順番待ちをしてたりして、「今やらないとどーするの」の時間になっていたため)(およそ20名いる撮影スタッフは、映画にくわしいことより吉祥寺にくわしいことが条件だったそう)、いざ公園についたら警備員さんがすでに待機しているので、それを見た松江監督は「‥この撮影が終わったら俺は捕まるんだろうか‥」と覚悟をしたとか。でも実際は、スタッフが機転をきかせて、「死んでしまった友達のために、文化祭で上映するフィルムが必要なんです!」と懇願して、「一曲だけなら特別だよ」ということになっていて、いざ一曲の演奏が終わり、バンドのメンバーがステージを降りてゆくのを確認すると、警備員さんたちはその場を去ったとか。‥機転というか、それうそトンチうそじゃん。この映画吉祥寺で上映していいのかな‥。
そう、東京の一般上映は12/26(土)より、吉祥寺バウスシアターで。レイトショーというのが難だけど、吉祥寺映画を吉祥寺で観られるなんてうれしいな。また観に行こう。

自動販売機で買ったのは、コーラでも熱いお茶でもなく、コーンポタジュ(これ、すごいイキオイで飲んでいて、すごいな、猫舌ではないんだな、と感心した)(すごく寒くてかじかんでしまう手を暖めたかったのだそう)。一旦飲んで、ふと置いたら、うまくバランスが取れず、重すぎるのか・もうちょっと飲まなきゃだめなのか、と慌てて飲んだところ、コーンが口中のへんなところに入って大変だったそう。たしかに若干挙動不審気味だった気が。もっとかっこ悪く!という俺の願いが通じた!と松江監督は喜んでいた。吉祥寺で二度目を観るときはそこ注目しよう‥。
ああそういえばレイトじゃなくて、昼間の上映を観て、前野さんの歩いた道をゆっくり散歩しながら帰れたらたのしいのに。ジャヴ50(て今は呼ばないか)でいいから昼間も上映してほしい‥。

来年2010年の元旦にはなにをしてますか?と聞かれ。「たぶん、また映画を撮るっていうこたえを期待されてるんだと思うんだけど‥。実際はこの‘ライブテープ’の上映があるので映画館にいると思います(松)」。「そうですね、映画館にいるんでしょうね(前)」。「あ、でも、10年後くらいにまた、‘ライブテープ’やりたいね、って言ってるんですよ(前)」。「・・・・。なんで言っちゃうの!?(松)」。「でもほんと、やりたいんですよ。10年後に、同じ曲順で同じ道歩いて(松)」「はじめに書いた企画書には、‘ライブテープ#1’って書いてあって。自分のなかでは、すでに続ける気なんです(松)」。

10年といえば、松江監督がこの映画祭に関わるようになって10年が経つそうで。どんな10年でしたか?今後の10年はどんな10年にしたいですか?という問いに、「今まで自分の映画のクレジットには、『作・演出 松江哲明』と書いていたのだけど、ライブテープにそう標記したら、なんか違う気がして。今回はじめて、『監督 松江哲明』とクレジットしました。そういう10年でした。こんな答えでいいですか?」。
今回も盛りだくさんのトークだった。ロードショーたのしみ。

*1:女子のあいだではこの歌は評判がよいようですがわたしはあんまり好きではないです。苦しすぎて死ぬ

*2:録音の山本さんだったかも