極東のマンション(2003)/マリコ三十騎(2003)/あんにょんキムチ(1999) @ポレポレ東中野

〜『童貞。をプロデュース』公開3周年&著書『セルフ・ドキュメンタリー』発売記念 松江哲明特集上映〜

極東のマンション
2003/監督・撮影・出演:真利子哲也/8ミリ→DV/カラー/32分
ドキュメンタリーに対する認識の格が違う作品。それでいてべらぼうに面白い個人映画。僕はナルシストな自分探し映像に対して、ダメ出しする母ちゃんの言葉に爆笑し、自宅マンションからのバンジーに震撼、「映画を撮る」という覚悟に感動した。8mmでもハリウッドでも、スクリーンに映し出された以上は映画は平等。そういう意味で真利子監督の映画には言い訳がない。「何かを表現したい」という若者たち、映画に打ちのめされるチャンスですよ。(松江哲明
マリコ三十騎
2003/監督・撮影・出演:真利子哲也/8ミリ→DV/カラー/24分
『極東のマンション』のセルフドキュメンタリー「っぽさ」を自ら破壊し、スペクタル映画のようなスケール感さえ持ち合わせてしまったのが『真利子三十騎』。真利子哲也自身をも作り替え、語られていることはウソだらけなのに、ここには紛れもなく8mmフィルムへの愛がある。ホントのことを伝えるためには、ウソは不可欠なのだ。海から数十人の男子がふんどし姿で現れるカットは、個人映画の枠を超えた映画史に残る名シーンだと思う。(松江哲明

あんにょんキムチ
1999/監督・出演:松江哲明/16mm/カラー/52分
日本映画学校の卒業制作ながら劇場公開を果たし、大きな話題を集めたデビュー作。キムチは食べられないが在日三世の松江が自身と家族にカメラを向け、それぞれの立場で語られる民族観に耳を傾け、見知らぬ祖国へ向かう。近年亡くなった松江の父と祖母の在りし日の姿や、夜道を歩きながら亡き祖父を思って絶唱する「あの素晴らしい愛をもう一度」に『ライブテープ』の原点を見つけることができるだろう。全てはここから始まった。(モルモット吉田

『あんにょんキムチ』を観たことがなかったのでこのプログラムを選んだのだけど。『極東のマンション』がおもしろくておもしろくて。すっかり射抜かれてしまった*1。うーん。悶々とした悩める自意識がこんなにおもしろい娯楽作品になってしまうのは何故なんだろう。視点?客観性?覚悟?まいったなあ。たしかに『極東のマンション』を観た青少年はみんな打ちのめされてしまうだろうし、少女は若き日の真利子哲也に恋をしてしまうと思う。かっこいいんだもん。真利子ハハの最強ぶりが素晴らしい。一家に一台(というかひとり)。
続く『マリコ三十騎』は、少女の抱いた恋心がかるくふっとんでしまう凶暴な、ウソばかりつく厄介な自意識の暴走。でもウソでくるんだ本気がすけて見えるので、なんというか愛しい。旗持って走るって『自転車吐息』だよねえ(感動)。まっとうがゆえの厄介さなのかなあ。
そんなこんなで最後に観た『あんにょんキムチ』は、若干パンチ弱く感じてしまった。妹に平坦な言葉でナレーションさせて、わかりやすいこととして提供する姿勢とか、お父さんの笑顔に惚れかけたり(自分の息子にむけてこの笑顔が出せるって。ひたすらイイナア)、世界への肯定感にはとても好感を持つのだけれど。はみだすものがないのがさびしいというか。でもこれは真利子作品に揺さぶられすぎたせいだと思うので、またいつか平坦な心理状態のときに見直したい。

*1:自分が今までに見た真利子映画ってなにかあったかなーと過去日記の検索をかけてみたら(この機能便利だ。やっぱ日記はさぼらず書こう。もっと日常のつまらないこともなるべく書こう)、「そんな無茶な!」の『アブコヤワ』があった(→☆))。そういえばトークショーで好青年ぶりに感動したのにその後チェックを怠っていたことをひたすら反省。劇映画『イエロー・キッド』を見逃したことをはげしく後悔