苦役列車(2012) @T・ジョイ大泉/渋谷TOEI 

苦役列車(2012)

苦役列車(初回限定生産版) [DVD]

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原作:西村賢太/監督:山下敦弘/脚本:いまおかしんじ/音楽:SHINCO/出演:森山未來高良健吾前田敦子マキタスポーツ田口トモロヲ
友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべきろくでナシ。第144回芥川賞受賞・西村賢太の話題作、待望の映画化。

7月に、3回、「苦役列車」を観ました。1回めは大泉学園シネコンでふつうに鑑賞*1、2回目めは渋谷で山下監督×いまおか監督のトークショー付き。3回めも渋谷で山下監督×森山未来トークショー付き。3回観た、ということは、つまりかなり好きな映画だったんです。好きだから、以下、長くなるけど、あきれないでね。(ほんとに長いので、4日くらいに分けて読むこと推奨)

映画は、まず、東映のマーク‥。岩場に波がざざんとあたる、あのシーンから始まります。岩場の波に、のぞき部屋の呼び込みの声が重なるんです。昔、東映のあのマークに、重ねる音は波音じゃなくてもなんだっていいんだ、と気付いたときには、発見!自由!発見!自由!と嬉しくなったけど(ばか)、この呼び込みの声もそうとう嬉しい。くだらないけれどそれだけで、「ああ、この映画には心を許せる」とリラックスしてしまう。なんか、いいのだ。しかもその声は、宇野祥平。もう序盤から心をわしづかみにされました。
日雇いで日々を暮らすこの生活を底辺というのなら、底辺でも青春はきらきら輝いているんだな。うん、きらきらしてました。ダメな主人公が愛嬌とヴアイタリティでかなり美しくなっていて感動的でした。下北DISをほぼ原作どおりにまくしたてるシーンは、居たたまれなくも爽快‥。原作にも役者にも青春にも(人生にすら)愛を感じました。
そんなわけでとても好きな映画でした。たしかに原作にだいぶ脚色した感はあるけれど、客席に笑い声が響くのは映画オリジナルの場面なことが多かったし(康子ちゃん関連アンド動物ごっこは鉄板)、西村賢太には見逃してほしかった。西村賢太と山下監督が仲良しになったら素敵な日本なのに。山下監督もいまおか監督も西村賢太も好きなので、残念なきもち(しかしそれでこそ西村賢太。と思わなくもない)。
3回観て気がついたもいうひとつのこと。気が付けば港湾アルバイトのシーンには、かなりの割合で佐藤宏(バスのなかで、貫太に「北町くんよぅ‥」てしゃべりかける役。いまおか映画の常連。つねづねいまおか監督は佐藤宏を好きすぎると思っていた)が画面に映りこんでいた。みんな佐藤宏を好きすぎる。

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【山下監督×いまおか監督(苦役列車では脚本)のトークショーのこと】
苦役列車の決定稿は14稿目くらいになるそうで、撮られなかったバージョンについて色々と。でもいまおかさん、変えるように言われたのに変えないやつ持ってきたりして、さすがって思ったよ。 ちがうよ、あれは何度も変えすぎて今どのバージョンなのかわからなくなったの。映画では貫太の食欲が目立つけれど、性欲目立つバージョンもあった。のぞき部屋のシーンも長かったし、もう一回行くことになっていた。 映画は始まってすぐに正二と出会うけれど、出会う前に寛太の生活を描写するバージョンもあった。朝起きてお金がないから仕事に向かって、駅の立ち食い蕎麦のいいにおいを横目でながめながら(お金がないからながめるだけ) 仕事の帰りに思う存分立ち食い蕎麦屋で食う!っていう。これは撮影もしたんだよね。え、撮影したんだ。
動物ごっこのところ、やめろって言われたけどやりきったよね。守った。要らないって言われたんだよね。女性陣に評判悪すぎるって。3Pしようで終わらせろって。3Pしようで終わらせるって、ねえ。動物ごっこのあと、スミエが貫太をコンビニまで送るっていうのもあったよね。あのひともいいところがあってね、ってスミエが言うと、どこにだよ、キチガイだよって貫太が。そんで少し喋ったあと、でも貫太が生きていてよかった、ってスミエが言うの。いいシーンだったのになんでやめたの? いいシーンだよ。いいシーンだからやめたんだよ、正二とのいいシーンが薄れちゃうから。
正二といえば、正二の行くコンパに貫太がもぐりこむっていうのもあったよね。後をつけて、同じ店にしのびこんで、アレ?偶然だねえ、なんてさあ。アメリカンな内装のこじゃれた居酒屋で、奥のテーブルから貫太がこっち見てたらおもしろいよね? おもしろいんだけどさ、おもしろいのは最初のところだけなんだよ。続かないの。だからやめたの。正二相手に爆発するのは美奈子ちゃんのときでいいし(このエピソード、ええー貫太はそんなことしないーっ。貫太は自意識が高いんだからそんなことしないー。とびっくりしながら聞いていた。こんなエピソード入れられたら、西村賢太まじで怒るわ。少し気持ちがわかってしまった) 
でさ、○○○の△△さん(なんか偉い人)が、バブルの頃の話がだいっ好きなのね。だって「わたしをスキーに連れてって」のなかの台詞をメールしてくるわけ。これ、使ってくださいって。でー、飲み会のときの会話(さっきの貫太がもぐりこんだとするバブル時代の大学生コンパの)を考えるんだけどさ、俺、どっちかというと貫太側だったから、バブルの若者が飲み会でなにを言うのかわからないのね。黒木瞳のわきげのやつ見た?とか書いて、違うな、って。違うよ、それは貫太側だよ。で、慶応のなんとかちゃんとクルーザーに乗ったんだー、とか書いて、あってるのか?って。それも違うよ。そこまでバブリーな大学生もいない。俺、その台詞読んで、いまおかさん苦しんでるなーって思ったよ。

映画のラストはまったくの映画オリジナルなのですが。「小説の終わり方。あれを映画でやったらダメなんですよ。小説はあれでよくても映画であの終わらせ方をしたらダメな映画になっちゃう」。

続々と山下映画ゲストが登場して小豪華だった。山下映画で主演を演じた山本浩司苦役列車のクレジットに「協力:山下浩司・新井浩文」として登場。これは、映画苦役列車の主役貫太役のオファーに悩む森山未來に口利きをしたことへの感謝だとか。山本・新井で呑んでいるとき、あっちに森山くんがいるよっていうんで一緒に呑んだんです。で、森山君が、オファーに悩んでるから、なんで?悩むことないじゃん、山下監督だよ!?って。そしたら、山下映画の駄目男といえば山本さんの印象が強すぎてー、俺の演技の焼き直しになっちゃうんじゃないかって考えてるっていうの。でー、なに言ってるんだよ、山下監督も成長してるんだから同じになんかならないよ、大丈夫だよって言ってー‥・うわはは(笑)。やー。ほんと感謝です。でー、元祖山下映画の駄目男として、森山君の演技はいかがでした? あーもうすごいっすね。すごいです森山君。山本君だったら出来た?え、無理無理、こんなに見事にできないよ。はは、まず、体を壊すよね。森山君のあれやって無傷ではいられない。でー、そもそも19歳に見えないよね。ははっ38歳に見える19歳って。設定変わっちゃうよー。 (ここ山下監督は笑顔でおっしゃっていたけれど、自分で話を振ったくせにひどい。と思いながら見てました)
大家の息子役をやった古澤さんは、撮影時舞台の仕事で小麦色以上に焼けていて、うわ、色白のイメージでいたのに必要以上に健康体!って困ってメイクさんと相談して、肝臓が悪いかんじに仕上げてもらったら、すごい不気味な迫力がでて、結果オーライでした。大家さんといえば、大家のおばさん、もっと威勢よく催促するのかと思った。あんな弱々しく催促させるとは思わなかったなといまおかさん。ああ、あれは、西村さんの別の小説のなかに出てくる大家さんー、 お年寄りの夫婦で、最初はすごい好意的なの、若い人を応援したい、なんて言って布団を貸してくれるけどいざ家賃を払わないと態度が豹変する話*2、あれがすごく好きで。おじいさんが威勢よくたたみかける後ろでおばあさんが弱々しくでもむかつく合いの手をいれる、あれがやりたかったの。それで息子役の古澤さんには大声で、母親役の大家さんには小声で催促してもらったの。
この古澤さんともうひとり佐藤さん(いまおか映画の常連さん。「おんなの河童」で、長老役を演じた人。「おんなの河童」のミュージカルシーンの踊りがゆるゆるなのはうまく踊れない長老カッパに統一したとなにかのインタビューで読みました。愛されすぎてる。本業の俳優さんではない)は肉体労働をすることもあり、そんなときには貫太くらいぺろりとたいらげるとのこと。古澤さんなんて、この映画を見たら無性に白米が食べたくなって、2合炊いてぜんぶ白米の味のままで食べてしまったそう。
この日のトークのハイライトは、いまおか監督の初恋の話。これはパンフレットにも載っているエピソードなんだけど、学生時代の片思い→告白→フラレかたがまんまこの映画とおんなじで*3、原作の私小説への私脚本がえし!ってかんじで可笑しかった。

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【山下監督×森山未來トークショーのこと】
ただでさえ大画面で貫太を見た後に見る森山未來はこじゃれてまぶしいのに、イマドキの若者らしくシルバーのペンダントをしてるんだもん、ああそうだ、この人は踊る人なんだ。薄汚い貫太のほうに親しみを感じるのはなぜ。これがスターオーラなのかな‥。好きなシーンを聞かれ、「冒頭、東映のマークにのぞき部屋呼び込みの声がかさなるところ。 宇野祥平さん好きなんです」(森山)。いい若者じゃないか‥(謎の立ち居地)。 「高橋が説教するシーンの、むくんだ顔でかったるそうになんにも話を聞いていない様子の貫太。見事だよね。飽き飽き聞いてるのがまるわかり」(山下)。
明るくも、原作の西村賢太がこの映画を気に入っていないことについてしょんぼりとおしゃべり。まず、このポスターに使われてる字体が、お洒落で苦役感がないって言ってました(進行役のテレビブロスの人談)。お洒落て。たくさんの人に見てもらいたいからねえ。
あと‥これは言いにくいんだけど‥ すみません!と森山未來の声がかぶり、はは‥。貫太の喋り方が江戸っ子じゃないって‥。あー・関西なまりがー(森山)。やー、貫太のセリフはけっこう原作どおりに持ってきたんですけど、やりすぎると漫画になっちゃうし‥。西村さんの書く喋り言葉は落語みたいですよね‥(山下)。僕東京生まれ東京育ちなんですけど、貫一みたいな喋り方してる人回りにいないですもん。いや、違うんですよ、西村さんはこの物語を誰よりも好きで、きっと誰がやっても気になる点はでてくるんですよ(テレビブロスの人)。

この日のハイライトは間違いなく森山未來の男気。
「なんか、この映画であっちゃんがバッシングされてるけど、あれすげー頭にきますね。あれ書いた人、ゼッタイ映画見てないっすよ。あっちゃんすげーいいし、別に主役じゃないし。(観客が不入りだと言われている)責任は、僕ですよ。ああ、でも、見てない人にあれこれ言われるのホントにやだなー!」「あっちゃんはほんとにすごいですよね。トップアイドルなのに、高円寺の高架下でフツーに撮影してるんですよ? あっちゃんて、トップなのに、時間があくとAKBのステージにでてるんですよね。250人くらいの狭いところで。そういうところがあの距離感をだせるのかな」。森山未來山は、あっちゃんのステージを見ようとAKB劇場にも行ったんだそう。 でもその日はさしこのお別れ会で、あっちゃんはあんまり活躍しなかったとか。多分会場の全員が、森山の男気にしびれたね。AKBのステージを観にいって男をあげるとは、すごい。

山下監督がなぜだか「モテキ」を意識していて(まー森山未來も、「苦役列車」のこと、「モテキ」のアンサー映画ですって言ってたけど)、映画の上映期間中に、「苦役ナイト」というイベントを開催してこの日はその宣伝をしたのですが、「苦役ナイトって、ツラそう」。という指摘に、「あっそう?俺ぜんぜん気が付かなかった。モテキナイトのことしか頭になかった」。

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苦役列車住民図鑑のこと】
と・こ・ろ・で。イベントのあるときは、(監督自ら)入場者に、苦役列車住民図鑑なる、トレーディングカードが配られました。配るときは封筒にちょこなんと入っていて、開封するまで何が入っているのかわかりません。主役である貫太とかマキタスポーツとかもあったのでしょうが。 ‥わたしは2回ひいて、2回とも美奈子だったんですよね‥。 ざっと聞いただけでも何人分あるんだ!?(マキタスポーツが出演する音楽番組の司会者とかまであったらしい)というなかで、なんという確率。こわいわ。 オリーブ少女に憧れた報いがここに。苦役ナイトを気にしつつ見送ったのは、苦役ナイトでも美奈子のカードひいたらやりきれなすぎるという理由も大きかったです。まじ。
ちなみにKのカードは「老人」。かっこいいこと書いてあるけど、オリジナルメンバーの美奈子の勝ちだね‥。
 

苦役列車住人図鑑・5 鵜沢美奈子(中村朝佳):原作にも出てくる通称“15点の女”。本人は可愛いので隙っ歯メイクと眉毛を足し、あと、サブカル女の特徴“ベレー帽”をのっけて、昭和のイライラ女に変身させました。西村氏から、“クソ生意気な女”感出てました との言葉をいただきました。

苦役列車住人図鑑・4 老人(橘家二三蔵):「オシッコをする瞬間は射精する感じで!」という演出をしたところ、みごとに“寝たきり射精”を体現してくれました。うめき声の中には死んだ嫁や娘の名前、カットしましたが「モンロ〜〜」といった過去に抱いた女(外人)の名前もうめいてもらいました。

*1:公開3日目の祝日(7/16)なのに、お客さんが10人いなくてにたじろいだ(大きなスクリーンだったのに贅沢ゥ!) (大泉学園が悪いのか。練馬区シネコンは必要じゃないのでは ← 練馬区在住の知人に聞いたら、映画?池袋に行くよ。帰りに呑みたいし。とのことでした) 大泉学園、上映後パンフレットを抱え入店したごはん屋さんで、ご主人に「映画?なに観て来たの?ヘルタースケルター?」とフレンドリーに話しかけられ、心が和んだ。和みつつ、ヘルタースケルターじゃなくてすみません! エリカ様がどこまで脱いだか答えられません!とつらかった)(大泉学園、「莫逆家族」を観たときもお客さん4人しかいなかった。‥大泉学園じゃなくて、わたしの映画選びが悪いのか。でも「莫逆家族」いい映画だったよ。大泉学園ではKをつれた2回目の鑑賞だったよ。Kも感動していたよ。莫逆家族のことも日記に書かねば。特にムラジュン新井浩文のことを。書かねば‥

*2:「潰走」「二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)」収録

*3:そこそこ仲良くしていた女の子への思いが高まり、ある夜彼女の住む逗子のアパートまで出掛けるも、部屋の電気が消えていたので、あれ、留守なのかなと思いながら部屋の前で立ってたら(待っていたら)銭湯帰りの彼女が「あれ?何してるの?」ってやってきて(同じじゃないですか!)路地に、シャンプーのいい匂いがひろがるわけですよ(同じじゃないですか!)で、彼女を抱きしめたら、「なんでこんなことするの?もう会えなくなっちゃうじゃない」って拒否されてー 。同じじゃないですか!で、もう会わなくなるんですか?や、言っても同じ大学だから、会わなくなることはないんだけど、遠巻きに見る、みたいになっちゃった。同じじゃないですかー!←同じ同じとつっこんでるのは山下監督です。わたしの心の声にあらず