浅草新劇場

ところで浅草の名画座といえば、ジャパニーズ・グラインドハウスにして、ある種の流刑地。わたくしなどにはまだ早い場所だと思っておりました。でもこのタイミングで「カモとねぎ」がかかるのもなにかの縁だもの(みつを)。背伸びしつつ潜入した浅草新劇場の壁は厚かった。

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浅草の名画座は、六区に3軒並んでいます。洋画系の「浅草中央劇場」邦画系の「浅草名画座*1、そしてこの「新劇場」。六区は、わたしの使う銀座線の浅草駅からはすこし歩きます(つくばエクスプレスの浅草駅からはすぐ)。距離はたいしたことないのだけど、浅草、ついついキョロキョロしちゃうのと、人でいっぱい(しかも老人率がたかいの)で思うように進めない。移動時間には余裕をもちましょう。浅草駅についたのが11:08だったわたしが、劇場についたのは11:23、「カモとねぎ」の始まる2分前でした。映画の前にトイレ行く時間がなくなっちゃったけど、間に合っただけでよしとしよう。受付で売っているパンやスナックがひなびているのが流刑地ぽくていいな。劇場に入るとなかなか広い。映写室が見えるのが昔っぽくて雰囲気あっていい。劇場内が広いせいか、すいてるのもいい。ゆったりしている。両脇に荷物置いちゃえ。すいてるからいいよね。席についたとたん、映画が始まった(この時点ではなかなか好感触)。
「カモとねぎ」上映始まる。映画が始まっても、席に座らない人たちが多数。左右の扉まわり、映写室のまわりにたむろっている。光のあるところにたまるって‥。昆虫の習性か。そんな人たちがおしゃべりしていてにぎやかといえばにぎやか。あちこちでなにか食べ物が入っているビニル袋をさわっているのだろう音が聞こえる。おおらかといえばおおらか。あっなにか怒声が聞こえる。「こんなところにいたら邪魔だろが!」的な。そして席に座らない人々が、現われては消えてゆく。みんな上映時間とか、気にしないのね。流刑地はフリーダム。両脇に荷物を置いた、その隣の席に男性あらわる(そのすぐ横にはおじさんが座っているのに)。ん?映画の画面は見ずに、わたしの顔を凝視しているような気配‥。気のせい?ちらりと視線を移すと、気のせいじゃなかった。凝視されていた。なんだ??思いっきり怖い顔でにらんだら、いなくなった。そういえば座席のあちこち、移動が多いな。なんだろう。一瞬邪魔が入るも、「カモとねぎ」、たのしく鑑賞。
映画が終わって休憩時間。女子トイレに向かう。客席は初老の紳士ばかり(さっき顔を凝視した男性は20代ぽかったが)。‥っていうか、女性はいない?女子トイレでも誰にも会わなかった。客席に女性の姿をさがす。老夫婦が一組と‥。一人で来ているあの髪が長い人は、おばさん?おじさん??(謎が深まった)‥‥。女性率が低いせいか、じっさまたちに声をかけられる。「今日は寒いね」「寒いね、温かいものでも飲む?」。わたしが社交性のある人間だったらよかったのに。と思いながら席に戻る。ここの映画館の休憩時間は短いのだ。すぐに2本目、「座頭市 兇状旅」始まる。パンを食べたら眠くなってしまい、少し寝る(今振り返ると無防備すぎておそろしい)(特におそろしいことがなかったのは、荷物を置いたその横に、善い人が座っていたからだと思う)(神はわたしを見捨てなかった)。
座頭市」終了。少し寝ちゃったので、次の映画は起きてるゾ、と誓う。休憩時間。いつもだったらとりあえず立ち上がってすわりっぱなしの体を休めるのだけど、目立ちそうでいやなので、座って過ごす。今日の3本立て、朝イチから観ていた人たちはここで一回転となるため、客席の移動が目立つ。休憩は5分くらいなので、人の移動をながめていると、すぐ終わる。
「昇り龍 鉄火肌」始まる。寒かったのでカバンをヒザの上に置いてしまい、左脇の席を空けてしまった。映画の途中、その席に男性登場。なんかあやしい‥と思ったら、ももを触ってきた。一回よけて、二度目さわられたときに、その手をひっかきながらにらみつける。‥‥。すごい派手な(マルチストライプ?)スーツを着た40代くらいの男性だった。びびる。でも男性、すぐにいなくなった。心底よかった‥。今、一瞬本気でこわかった。さっきの20代男性も、痴漢だったのだろうか?でもただ顔を見てたよなあ?んんん‥。もしかしてこの映画館に一人で来る女性は、ここで性的な商売を始めたりするのだろうか?えええええ。わたしちがいます。でもそんなことってあるかしら?‥映画を観ながら推理しようとすると、隣の席に別の男性あらわる。こんどは初老。しまった、カバン置いとけばよかった。男性、じりじりひざがしらを寄せてくる。わたしがよけたり、脚をくんだりすると、すごいビクッとする。これはさわってくる度胸はないな。何度も脚を組替えて威嚇していたら、いなくなった。よかった。空いていた席にカバンを置き、左右ガードする。これで安心。と思ったら、しばらくして、後ろの初老男性に声をかけられた(もちろん映画上映中よ)。「あんた、こういう映画好きなの?」。観たかったのはこれ(任侠もの)ではなく、さっきのコメディなんだけど、古い日本映画というくくりでは「こういう映画」でいいよなあ、と思い、「そうなんです。おもしろいですよね」とこたえる。「ふうん。あんた、この映画館にはよく来るの?」「あ、今日がハジメテです」「そうか、ハジメテか」。会話終了。この時点ではあまり物事を理解していなかったのだけれど、今、あらてめてふりかえると、おじいさんがなにを聞きたかったか、わかるような気がします。このおじいさんにはなんとなく、思うところがあり、劇場を出るまえに会釈して帰りました。

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この時点で、「浅草新劇場」、なんかこわいからもう一人では行かないでおこう、と思うくらいだった。浅草で映画という粋さは捨てがたいので、プログラムによっては友達かKと来るかもしれないけれど(Kは2本立てすらイヤがるので、3本立てなんて絶対付き合ってくれないのだけど)、一人で敷居をまたぐことはないな‥と。
しかし家に帰ってKに話したら、叱られた叱られた。「危機管理能力が低すぎる」「どうして途中で出てこないの!ほかに女の人がいない時点で、おかしいでしょ、その映画館!」。えー、でもぉー‥。ほかに女の人‥いないわけではなかったよぉ。ていうか映画館て暗いから、客席までよく見えないじゃん(いやあそこは比較的明るめだったのだが)。痴漢だってにらんだらいなくなったんだし、結局こわいことはなかったんだし。それにもう一人では行かないって言ってるのに、なんで怒るのよ。悔しいやら悲しいやらで、ネットで浅草新劇場の評判を拾ってみたら、背筋が凍った。あはは。あそこは都内有数の、初老男色家のハッテン場らしいです。座席に座らず立っていた方たちは、お相手を探していたのだとか。2階の座席がそういうことが行われる場所だとか、最前列も「お誘いOK」シートだとか、知らぬは仏って、このことだよねえ。ウンあたい、二度とあの敷居をまたがない。つうかゴメン!なにも知らずに禁制区に土足であがりこんじゃって。この日無事だったのは、日曜日だったからかしら、平日はもっとフリーダム状態らしいですー(すごいこわい記述読んじゃった)。
無事でよかった‥。としみじみ思うとともに、なにも知らずに行ってよかった、なにか知っていたら行けなかったもん、と妙に誇らしいきもちになっているわたし。叱りたくもなるわな。

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余談。男色ハッテン場でこの3本立て。妙に感慨深いです。しょぼいダンディの森雅之、男っぷり炸裂・汗臭そうな勝新、えーと「昇り龍」は誰?色男ヒデキ?←すぐ死んじゃうけど。それとも浅草が舞台だから?‥。まったくもって感慨を深めている場合じゃない。

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この劇場の素敵な点も書こう。3本立て、千円は安い。しかも午前中に入場すれば800円(2回目からでも)!途中外出も、30分までOK!映画中でもお茶OK〜(これは近くに馬券?の引換所があるためと思われ、まあ客層に不安感つのるっちゃあつのる。が・な!)☆

*1:「中央劇場」と「名画座」は、健全な映画館らしいです。マナーが昭和スタイルなだけで。特に名画座は、映画愛にあふれたところらしいので、お嬢さんがたもおそれずお向かいくださいまし