大誘拐 RAINBOW KIDS(1991)・近頃なぜかチャールストン(1981)はじめての人のための岡本喜八 @新文芸坐

大誘拐 RAINBOW KIDS(1991)

大誘拐 RAINBOW KIDS [DVD]

大誘拐 RAINBOW KIDS [DVD]

東宝/カラー/120分/脚本:岡本喜八/原作:天藤真/出演:北林谷栄・緒方拳・風間トオル樹木希林・岡本真実
身代金100億円!お婆ちゃん誘拐事件をめぐる傑作ヒューマン・コメディ。日本アカデミー監督・脚本賞キネ旬2位。

おもしろかった!テンポのよさ、登場人物それぞれの事情、ぎっしりとみっしりと、縦横横糸がつながっておおきな綺麗な絵になる見晴らしのよさ。広がるだけ広がった物語が、収まるべきところにきれいに収まっていくきもちよさ。娯楽だわ映画だわ(満足!)。
物語の中心となるおばあちゃん・北林谷栄のチャームもさることながら、わきを固めるキャストの豪華なこと。樹木樹林、天本英世、緒方拳、嶋田久作‥(嶋田久作はこの映画のなかではあっさり派)。名前だけみるとくどい気がするんだけど、実にいい塩梅にちりばめられて、胸焼けしないでスパイスの妙を味わえます。いろいろがまっとうされているなあ、とうれしくなっちゃう。贅沢な映画を見た!という充実感ぱねえ。
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近頃なぜかチャールストン(1981)

東宝/白黒/117分/製作・脚本:岡本喜八/脚本・出演:利重剛/出演:財津一郎小沢栄太郎田中邦衛
今、『独立愚連隊』や『肉弾』の主人公が生きていたら‥‥。奇行老人集団と自称少年の奇妙な共同生活を描く。キネ旬10位。

これまたおもしろかった!反体制映画のようなユートピア映画。ユートピアは美しくてせつない。「大誘拐」の王道ぶりとは対照的に、なんていうんだっけこういうの。アウトローじゃなくてマイナーじゃなくて裏街道じゃなくて‥(ああそれなのにこっちのほうが好きかも)。
主人公の利重剛のかわいさに(というか若き日の利重剛をかわいく思う自分に)戸惑ってしまったら話についていけないので、そこは注意だ。それにしてもあの憎たらしさがかわいく見えるなんて若さってスバラシイ‥。自称不良少年の利重剛とオカシナ老人集団のお話、なんだけど、これまた例によって老人集団が濃い。濃すぎる。うれしくなっちゃう。何度もハチマキを巻きなおす殿山泰司のキュートさ(シュポン!)。しかし女子の本命は、「もと呉服屋の番頭さん」という設定の、ソバージュ頭で基本オネエ言葉、外出時はフリルの日傘をさしハンドバッグをぶらさげる岸田森。麗しいです(五右衛門ではない)。

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この日もトークショーがありました。岡本喜八特集の最終日ですもの。
メンバーは、岡本みね子さん、本田博太郎さん(喜八監督のコスプレ姿で登場)、風間トオルさん、(観客席から舞台にあげられた)岡本真実さん。
本田博太郎さんはとにかくサービス精神が旺盛で、喜八監督の影武者のように振舞ってくださいました。風間トオルさんは「大誘拐」の思い出について、映画に関してなにも知らない自分がベテランの役者さんに囲まれてたいへんだったこと(でもこの、あんまり知らない感が画面ではいい方向にむかっていると思います)、ロケ地が温泉地だったのに喜八監督がお風呂にはいっているのを誰も見たことがなかったことなどを披露。実際喜八監督は、お風呂はあんまり好きじゃなかったようです。
思い出深い喜八作品について。真実さんは「ジャズ大名」。当時反抗期だった真実さん。父親の喜八監督にも家では反抗しまくりだったらしく、「その恨みを映画で晴らされました‥。へんな役なんですよ〜(笑)」。「ジャズ大名」では両足にそろばんをつけ、畳のうえをすべって移動する若いお侍役が真実さんです。ソーキュートです。
みね子さんは、「映画の内容についてはご覧になった皆さんはいろいろな感想をお持ちでしょうけど、わたしはウェスタン西部劇、「イースト・ミーツ・ウエスト」ですね‥。‥。この映画を作らなかったら、あそこまで借金を背負わなかったんじゃないかな、とか、でもアメリカでそれはたのしそうに撮影しましたでしょう‥。いろいろな思い出があるんですね‥」。OH!今日は(今日も?)ヘビー!
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質問コーナーで印象深かったところ。「喜八組といいたいような常連の役者さんがいらっしゃいますが、皆さん濃い方ばかりですよね?ああいう顔が好きなんでしょうか」。という問いに。
「顔というより骨格にこだわりがあったみたいです。(スクリーンに)うつるのは骨だ!って。わたしが思春期のときに、自分のまるい顔がいやで拒食症みたいになっちゃったことがあるんですよ。そしたら、「真実ー、丸顔は痩せても丸顔だぞ。痩せたって、まるい顔がやつれるだけで、細長くなったりはしないんだぞ」なんて言われて。馬鹿らしくなって、きちんと食べるようになったんですけど」。真実さんのこの発言に、「あらぁ、はじめて聞いた‥。女房に言わないで娘だけに言うようなことがあるんですねぇ」とみね子さん。
「そういう喜八組のほかに、配給会社などから出演を依頼される役者さんがいると思うんですけど、そういうのはどうでしたか?」。「役者さんに対しては、そのひとの持っているものをクローズアップさせることはできても、持っていないものをうつすことは出来ないって言ってましたね。喜八にとってあんまり無茶に思えたキャスティングは、俳優さんはそれが仕事だからって言って、自分が降りちゃうんです。監督を。降りたこともあるし、そこで配給会社の方が折れてくださることもありました(みね子さん)」。

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15日間つづいた喜八の特集も今日が最終日。「非常にお名残惜しいんですけど‥。でも、明日からは新文芸坐は、「8 1/2」の上映なんですね。マルチェロ・マストロヤンニは、喜八も大好きな役者さんでした。ぜひ、明日も新文芸坐にいらしてくださいね」。この特集上映中、毎日劇場にいらしていたみね子さんは、おおきな愛でトークショーをしめてくださいました。ピース。そして敬礼。