水出珈琲 喫茶モナ

なにもこんな年の瀬の押し詰まった時期に行かんでも‥と思いつつ、1月は1月であわただしいだろうし、せっかくお休みが取れたので、駆け込むように向かったイルフ童画館

柳原良平 船と絵本とアンクルトリス 2016年11月18日(金) - 2017年1月23日(月)
  

柳原良平のグラフィカルなデザインを絵本という側面から見せてくれたり、奥様のお誕生日に贈られた愛情と愛嬌と緻密な技術いっぱいの手作り‥紙製のアンクルトリスやデコレーションケーキに胸がいっぱいになりつつ「精巧すぎるぅ‥!」。いろんな角度からうっとり眺めた。アンクルトリスのミニトートがもらえるのも太っ腹でうれしかった!このミニトート欲しさに飲まないであろうトリスを買おうかじっとり考えたことがあるのでなおさら。
武井武雄のコーナーは大澤コレクションや、グラニフコラボの原画展示!『花園の気流』の原画はじめて見た!麗しかった〜‥。白い紙に描いたからあの色なのかな。色味新鮮だった‥。この日が2016年イルフ納めかつ2016年美術館納めと思うとなかなか帰る気持ちになれなくて困った。来年も美しいものたくさん見られますように。何度も世界に感謝する気持ちになれますように。推定3歳児がラムラム王のことを「かわいい人」と呼ぶのを聞いて、あまりのかわいさに武者震いもした。あわただしいからこそ、来てよかったな。
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さて、イルフ童画館のそばある、モナという喫茶店

岡谷駅周辺で純喫茶、といえばここなのかしら。喫茶もできるレストランやカフェはあるけれど、純喫茶は。
以前一度お邪魔したことがあり、雰囲気がよくて自分好みなのはわかっていたけど、岡谷には日帰りで行くことが多いので、イルフ童画館内の喫茶ラムラムの限定メニューが気になったり(最近ラムラムの活躍がめざましいのですが!お邪魔したくなる企画展メニューで心をくすぐる。にくいぜラムラム!)、近くに出来たお菓子屋さんやカフェのごはんも食べてみたかったり、ごはんだったらいっそ鰻を食べたかったり‥。前回(2016年秋)向かった日は定休日だったし、最近はすれちがいでした*1
 
(たつみ会館のメニューが混ざりこんできてムムム。当たり前だけどモナにはお刺身ありません)
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まだ12月で雪はありませんが、岡谷はほぼ北国。モナのドアを開けると、ふわっと暖かい空気。石油ストーブのにおい。マンボかな?音楽が耳に心地よく。いきなり暖をとらせてもらった気分。北国の喫茶店は冬がよい。

以前このお店に来たときはママが切り盛りする時間帯でラジオが流れていたような気がするのですが、この日はマスターが、お店の中央にあるレコードプレイヤーでBGMを流しており、レコードによって音のバランスを調整している模様。うわー、いいなあ。一気にテンションがあがるわたし。紫煙が育てた褐色の空気も好ましい。ほんとにとても暖かい空間。前にこのお店に来たときも冬だったけど、1月の夜は寒すぎて、暖めてもらってもまだ寒かったのかしらん。
 
お店の目玉商品水出珈琲は苦みがまろやか。落花生は、マスターが栽培されたそうで「普通の落花生よりだいぶ大きいんだよ」とご自慢そうにサービスしてくださいました。プリンアレンジの1種である「パリジェンヌ」は、下にバニラアイスが敷きつめられており、うう!しばれる!思いだした、前回もたしかこのパリジェンヌをオーダーして極寒だったんだ〜‥(自分、バカなんすよ‥)。

凍えつつにんまりしているわたしにマスターは言いました。「この店、あと三日で閉店しますんで」。!?‥2016年の営業のことですか? 静かに店内の貼り紙を指差すマスター。家内の体調が良くありませんでね‥。昭和42年に始めたこのお店は、あと三日、2016年12月30日で閉店するのだそうです。え?え?え?うろたえるわたしに、「わたしどもでも今月になってから決めたことで。今年のはじめには、あと十年はお店を続けるつもりで水回りを補修したばかりだったんですけどね」。

なんて骨体‥!やっとひさしぶりに来れたのに。さっきまでいらしたお客さんがちょうど帰られたところだったので、店内の写真を撮らせていただきました。
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(珈琲の 香りまとひて 秋の街)
 

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(発表します!特に好きなコーナー。文字通り角。お店の奥席。毛糸のクッションカバーの昭和感いとしいです)
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(発表します!ここもかなり好き。やばい。テーブルとテーブルを区切るついたて?の中に水槽がはめこんであるの。ときめく)
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昭和42年にオープンされて、約半世紀。岡谷の町は変わりましたか?わたしの頼りない質問に、「ええ、変わりましたよ。だいぶ変わりました」。やっぱり昔はこのへんは、ずっと山道だったのかなあ。ぼんやり想像しようとすると、「お店が出来た頃は、もっとにぎやかだったんです。町も人も」。予想外の展開。「今は、商店街もこのへんまででしょ?もっとずっと向うまで、商店街が続いていたんです」。あ、でもたしかに映画館とかこの先ですもんね‥。「今はシャッター商店街みたいになっちゃってるでしょ?あんなもんじゃなかったんです」。やっぱり予想外の展開*2
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‥気を取り直して店内を見やる。こんなときにもレコードの音は暖かい。不思議な機械がいっぱいあるけど、これはなんだろう。横に貼ってある折り紙かわいいな。眺めているとマスターが機械のつまみをひょいっとひねり、店内にラジオが流れました。うわ、ラジオ!これ、現役のラジオなんですか?「こっちもラジオだよ」。マスターの趣味のひとつに、古い機械を修理することがあるらしく。なんと廃品から作ったレコードプレイヤーまで。下の木枠から手作りなんだそう。この世に78回転のレコードがあることを、はじめて知りました。50回転(ズ)なんてまだゆっくりじゃん。

(これもラジオ。囲いが無いだけ)

(写真撮ってるときは気付かなかったので非常にぼんやり映っていますが。グリーンの陰にあるのが廃品から作ったレコードプレイヤー)
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不思議な蓄音機でレコードをかけてくださるマスター。ハンドルを手回しして、この振動がここから反響して・・・。え?電気を使わずにこんなに大きな音が?「そうですよ。エジソンが発明したまんまです」。え、え、え〜?蓄音機って、ポータブルプレイヤーなんですか?「‥蓄音機は蓄音機ですよ‥」。昔はこの蓄音機を持って山に行き、フォークダンスを踊ったんだそう。
なんて素敵なの‥(山の上DEフォークダンス‥!)。名残り惜しいながらもあずさの時間がせまっていたので頃合いを見ておいとま。最後になってしまったけれど、来れてよかったです。素敵なもの見せていただいてありがとうございました。
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前回お店に来た時に、「マッチはもうないの」と言われた気がするのですが、マッチを蒐集するようになって、たずねるタイミングによって返答が違うことを知ったため、ダメもとで聞いてみた(お会計でレジを開けたとき、付近にそれらしきものが皆無だったので「やっぱりないのか〜」とは思ったんだけど、昭和42年に開店したお店なんだからマッチ、あってくれ‥!と祈る気持ちで)。
「マッチ‥!マッチね!そうそう、ここに入れてるんだよ」。お店の中央に脈絡なくおかれたペンギン(このペンギン、気にはなってた。ものすごく)の置物のなかからお店のマッチがざくざくと!

(実は重要な任務を担っていたペンギン)
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「マッチね〜。言われるまで(存在を)忘れていたよ。閉店しちゃうんだから、もう、お店に来てくれたお客さん全員にもらってもらえばよかったなあ」。
マスター!わたし、このマッチを見るたびに、今日のことを思い出します。

*1:ああ、でも、結果論だけど。前回行けていたら「やっぱりよいところだな〜」とほくほくするもこの日は別のお店を散策して、来年になって閉店を知りすごく悔やむことになったんだろうな。いろいろな出来事が繋がっての日々なんだろうな‥。ちょっと泣いてこよう

*2:岡谷は蚕の町だったので、昭和にとても栄えたのです