橋本平八と北園克衛展 異色の芸術家兄弟 @世田谷美術館

  
彫刻家と詩人、異色の芸術家兄弟。純粋な表現の探究の軌跡。
独自の精神性が凝縮された木彫作品を制作し、若くして亡くなった橋本平八。大正時代の新興芸術運動から出発し、戦後、国際的な視覚詩の運動のなかで注目された北園克衛三重県出身のこの兄弟は、大正時代の一時期、世田谷の太子堂でともに暮らしていました。別の領域で活動を展開しましたが、互いの作品を高く評価し、影響し合い、それぞれの表現を深化させていきました。本展では、木彫作品約100点と絵画作品から橋本平八の作品世界を、ロサンゼルス在住の北園克衛研究家ジョン・ソルト氏のコレクションを中心として北園克衛の多岐にわたる創造の全容を、あわせてご紹介します。

北園克衛のことは、オリーブに連載していた「のんちゃんジャーナル」*1経由でずいぶん前に詩人として知ったのだけれど、お兄さんの橋本平八のことはまったく知りませんでした。38歳という若さでこの世を去った、北園氏の活動におおきな影響を与えたという5歳上のお兄さん。どんな人なのかしら。世田谷美術館のチラシに載っている写真では、対照的すぎる外見に、思わず微笑んでしまうほどなのだけど。

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実際それぞれの作品からうける印象もぜんぜん違う。彫刻と詩、表現法が違うということをさしひいてもぜんぜん違う。お兄さん・橋本平八の彫刻は、仏像など土着的なモチーフのものが主で、日なたのにおいや慈愛、それとユーモアをつよく感じる。ときおり大胆すぎるほど大胆なデフォルメ?がされているのが、モダンといえばモダン。木のぬくもりや材質を表現方法として大事にしているのか、背中に亀裂がはいった像がありにドッキリさせられた(像のまわりを360℃見まわせる展示法はここを見るためなのかなあ?とついまじまじ見てしまった)。 北園克衛の創作展示(詩以外の表現の展示のほうがボリュームあったのでヘエ‥と思ったのだけど、まあ、展示だものそれはそうよね。写真を詩だと言った彼なのだし)は、都会的に洗練されている。何十年経っても色あせないスマート。モノクロームのまぶしさ、イメージの洗練。ジョン・ソルト氏のコレクション量と愛情量すごかった。『マヴォ』が展示してあって胸がたかなった。素敵なひとやもの同士は集まるのねえ‥。
兄と弟それぞれがまったく違う方向に花を開かせたのは、兄弟同士お互いを見ることで、自分の適正ややるべきことが、客観的に見えたんじゃないのかな。同じ環境に育っても違う世界に花を咲かせる人間の小宇宙の妙というものを強く感じました。どちらも素敵な宇宙だったのでつい長居してしまい、美術館の外に出ると外はもう真っ暗。砧公園の真っ暗さ・心細さはなかなかのものだった。以後気をつけたい。

のんちゃんジャーナルですすめられるままに詩集を手にして早幾月。

北園克衛詩集 (現代詩文庫 第 2期23)

北園克衛詩集 (現代詩文庫 第 2期23)

まっさきにあたまに浮かぶのは「静力学」の一節。どの詩もかっこいいのだけれど、この詩がいちばんつよくにこころに残るのは、すうっと切り込んでくまぶしいイメージのインパクトが大きいせいかしら。白い宇宙にひとりぽっちで放り出されたような、ほこらしげな孤独。

明るい生活と僕です
明るい思想と僕です
透明の悦楽と僕です
透明の礼節と僕です
新鮮な食慾と僕です
新鮮な恋愛と僕です


青い過去の憶ひ出は
みんなインキ瓶に詰めてすてました

*1:のんちゃんジャーナル〈2〉 (オリーブの本)」に収録された「こんな手紙が届いたよ その2」のなかで、ジュンが紹介・推薦している

*2:念のため。向かって右側が彫刻家、左側が詩人